ナスを切る手を止めて、私は思わず京花さんの方を見た。

「咲ちゃんは頑丈だし、病院行くって言ってたから大丈夫よ、って言ったのにね──『でも、彼女、本当にしんどいときしか休みませんよね』って」

──そうか、本当に心配して、来てくれたんだ。

「ふふ、颯真くん、素直ないい子よね」

 京花さんは楽しそうに続ける。
 ちょっと照れくさくなって、京花さんの好奇心いっぱいの視線から逃げるように、まな板へ視線を戻した。

「……いい人だけど、彼が素直っていうのには、ちょっと賛同しかねますね」

 顔を見なくても、京花さんがふふっと笑ってる空気が伝わってくる。私はこれ以上赤くなってる顔を見られたくなくて、わざとらしく時計を見た。

「あ、もうこんな時間。仕込み、さっさと終わらせちゃいますね」