「苦手っていうより、あれは……トラウマみたいだった」

 私の笑顔が、止まった。
──ごまかせそうにない。

 私は一度、息を吐いて目を伏せる。そして、小さな声で話し始めた。

「──10歳のとき、父と母が大喧嘩して、そのまま父が出て行きました。……雷の日でした」

 結城さんはこちらを見たけれど、私は彼の方を見る勇気がなかった。
 我ながら情けないと思う。でも、なぜかすべてを話してしまいたかった。

「──それまでは、どちらかというと普通の父親でした。でもその日は、テーブルを蹴って、食器棚を倒して……家中に、大きな音が響いて、母は泣き叫んでいました。その間中──もっと大きな雷の音が重なってたんです」

 手が震えているのに気づいて、私はそっと両手を握り合わせた。
 彼に悟られないように。

「それがきっかけで、両親は離婚。──そのとき母のお腹にいた双子は、無事に生まれました。それ以来、父に会っていません。柚月と律希は、生まれてから一度も、父親に会ったことがないんです。……会わせる価値もない人ですけどね」

 喉の奥が詰まりかけて、大きく息を吸った。