氷壁エリートの夜の顔

 布団越しにかけられた声は、驚くほど優しかった。
 そっと肩に手が置かれ、ゆっくりと布団が持ち上げられる。結城さんと目が合った。私は、自分が泣いていることに、そのときようやく気づいた。

 見られたくなかった、こんな姿。──いい大人が、雷を怖がって泣いているなんて。

「……雷、苦手で……小学生のころから、ずっと……」

 声はかすれて、うまく喋れない。

「イヤホン、忘れちゃって……どうしよう、怖い……」

 その言葉に、彼はほんのわずかに眉を寄せた。
 そして、少しだけためらったあと、布団の中に入って私の隣に座り、そっと抱き寄せた。
 ぎゅっと、けれど、優しく。

「大丈夫。ここにいるから」

 その言葉に、心の奥の張りつめていたものが、少しずつほどけていく。

 腕の中、ぬくもりに包まれていると、彼の心臓の鼓動が静かに耳に届いた。
 一定のリズム。あたたかい音。

 気づけば、私はまぶたを閉じていた。
 震えが少しずつ収まって、呼吸が落ち着いていく。
 そして──彼の腕に包まれながら、眠りに落ちていった。