「ソファはありますか?」

 突然の一言に驚いて、思わず彼の顔を見る。スタッフの「簡易ベッドをご用意できます」という説明にうなずいた彼は、いつもの無表情のまま、ごく自然にこう続けた。

「僕はそちらで休みます。桜さんはベッドを使ってください」

「え……でも、それは──」

「僕はかまいません」

 その言い方があまりにも平然としていて、私の方が戸惑ってしまう。言葉にも態度にも、ためらいの色は一切ない。

 ……たしかに、ここで揉めてもどうしようもない。結城さんがそう言ってくれている以上、受け入れるしかない。

「……わかりました」

 私は頷いて、チェックインの手続きを終えた。

 部屋は、一般的なビジネスホテルよりもずっとゆとりのある、ダブルルームだった。

 落ち着いた照明に、木目調のインテリア。控えめな色合いでまとめられた室内は、ほどよく上品で、私は少しだけほっとした。

 中央には、クッションの効いた大きめのベッドが一つ。そして壁際には、さきほどスタッフが運び込んだ簡易ベッドがセットされていた。

「寒くないですか? エアコン、少し調整しておきました」