「まさか」という言葉が、頭の中でスーパーボールのように跳ね回る。なにこれ、何の試練? っていうか杏奈ちゃん、予約するときにはダブルチェックするよう、あれほど言ったのに……。

「……白石さんの手配ミスですね」

 横から、結城さんの落ち着いた声が静かに入る。その瞬間、反射的に「すみません」と言いかけた自分に気づき、慌てて言葉を飲み込んだ。
 別に、私のせいじゃない。だけど、なぜか申し訳なく感じてしまう。

「あの、ほかに空いてる部屋があれば、今から2部屋取ることは可能ですか?」

 スタッフは丁寧にモニターを確認する。
 お願い、シングルでもツインでも、贅沢にダブル2部屋でもなんでもいいから、どうか空きがあって──頼む!

「申し訳ありません。本日は満室でして……近隣の系列ホテルも週末で混み合っておりまして、おそらくどこも難しいかと」

 その言葉に、胃のあたりがじわりと重くなった。よりによって、出張先で、結城さんとダブルルームって……。

「ネットで別の宿を探してみます。私、カプセルでも大丈夫なので──」

 そう言いかけたところで、隣から低く落ち着いた声が割って入った。