氷壁エリートの夜の顔

 曇った空の下、街の灯りがぼんやりとにじみはじめていた。
 宿に着くころには、雨はすっかり上がっていて、私は少しだけホッとする。

 フロントには数人の旅行客が列を作っていて、ロビーにはスーツケースのキャスター音が響く。チェックインのピークなのか、フロントスタッフも忙しそうだ。

 ほどなくして、私たちの番が来た。
 社名と予約名を告げ、「シングル2部屋で予約していると思います」と伝えると、スタッフがモニターを確認し、小首をかしげた。

「あの……ご予約についてなのですが、こちら1室のみのご手配でして……ダブルルームでよろしかったでしょうか?」

 その瞬間、空気が止まったように感じた。

「……え?」

 隣で、結城さんがわずかに動揺したような声を出した。
 いや、なにかの間違いでしょう? だって、まさか、そんな──

「ひ、ひと部屋……ですか?」

 なんとか声が裏返らないように気をつけながら確認すると、スタッフは申し訳なさそうにモニターを指差した。

「はい、お名前も一致しております。ダブルルーム1室でのご予約となっております」