帰ってきたのは、その一言だけ。
 了解、雑談NGね。じゃあ仕事の話でも。
 気を取り直して、私はもう一度トライした。

「この件に入る予定だった他のメンバー、どうやら海外案件が長引いてるみたいですね。どこまで動けるかわからないので、とりあえず私たちで進められる部分だけでも──」

「そうですか。では、担当のタスクだけ進めてください。僕は別件を処理します」

 ……壁だ、氷壁が見える。アルパイン装備を揃えても登れる気がしない。

 彼は、徹底的に壁を作っていた。
 どれだけ声をかけても、業務外の会話は即シャットアウト。
 むしろ、距離を詰めようとするほど、逆に遠ざかるような気がした。

 ……やっぱり私、苦手かもしれない、こういうタイプ。

 沈黙のなか、資料をめくる音だけがやけに大きく響く。
 わずかに肩を落としながら、私は内心つぶやいた。
 この人と、やっていけるのかな……。

 すり合わせをする内容は山ほどあるのに……空気が冷たすぎて、ミーティングの30分がやたらと長く感じられた。