《視点:佐伯 瞬》
「……これ、なんだ?」
佐伯 瞬は、地図の上で指を止めた。
渋谷区役所の4階、都市整備部開発課。
その一角にある「渋谷都市再構築事業」の地図は、最新の開発案を示していた。
道路、施設、地下インフラ。
全て、完璧に整っていた──ように“見えた”。
だが、ある区画だけ、妙な違和感があった。
「このブロック、予定より空白が広くないですか?」
「ん? ああ、そこはまだ“協議中”ってことになってる。仮設テナントの撤去が済んでないんだよ」
上司の石井は、コーヒー片手にそう言った。
だが、瞬は気づいていた。
その“協議中”と書かれたエリアが、事件現場──道玄坂二丁目──と完全に一致していたことに。
そして、資料ファイルの中には、別の地図が紛れていた。
表面上は同じ構図。
だが、拡大してみると、あるはずのビルが一つ描かれていない。
しかも、PDFのメタ情報にはこんな一文があった。
「202X/9/24 04:03 作成者:非開示
データ提供:Luma都市空間研究所(削除済)」
「Luma……?」
どこかで見覚えがあった。
昨夜、調べていたヒヨコ☆ちゃんの配信ツール《LumaCast》。
その開発母体の名が、《Luma都市空間研究所》。
──彼女の“死”と、“都市開発”は、
まったく異なるジャンルの話だと思っていた。
だが、違った。
彼女が配信していた“空白の14分”。
そして、ここにある“空白の区画”。
それはすべて──《記録されない領域》だった。
*
その夜、瞬は役所を出て、地図のその場所へ向かった。
渋谷、道玄坂。
午後8時。
雨が降っていた。
現場に着くと、奇妙なことに気づいた。
そこには何もない──
……はずだった。
でも、あったのだ。
建物が。看板が。ネオンが。
「地図では“空白”なのに……実在する……?」
しかも、あるビルの前にだけ、人の気配がなかった。
隣のラブホテルも、クラブも、コンビニもにぎわっているのに、そのビルだけ“沈黙していた”。
「……ここ、何のビル?」
Google Mapでは名前が出ない。
ストリートビューでも、モザイクがかかっている。
実在しているのに、存在しないように振る舞っているビル。
その入口に、なぜか小さなQRコードが貼ってあった。
読み込むと、黒い画面に白い文字が浮かんだ。
「アクセスコード:HYK0217が必要です」
“HYK”──ヒヨコ。
彼女のIDコードに一致していた。
彼女の死と、渋谷再開発と、この“記録されないビル”──
すべてが、一本の線でつながった。
瞬はその時、強い視線を感じた。
振り返ると、黒いパーカーを被った若い女性がいた。
目が合った瞬間、彼女はフッと微笑み、こう言った。
「あなた、命狙われてるよ──たぶん」
そう言って、闇に消えていった。
……何が起きているのか、分からなかった。
でも、ひとつだけ確信できた。
これはもう、再開発なんかじゃない。
これは、
“都市そのものを再編集する”計画だ。
──第3章、了。
「……これ、なんだ?」
佐伯 瞬は、地図の上で指を止めた。
渋谷区役所の4階、都市整備部開発課。
その一角にある「渋谷都市再構築事業」の地図は、最新の開発案を示していた。
道路、施設、地下インフラ。
全て、完璧に整っていた──ように“見えた”。
だが、ある区画だけ、妙な違和感があった。
「このブロック、予定より空白が広くないですか?」
「ん? ああ、そこはまだ“協議中”ってことになってる。仮設テナントの撤去が済んでないんだよ」
上司の石井は、コーヒー片手にそう言った。
だが、瞬は気づいていた。
その“協議中”と書かれたエリアが、事件現場──道玄坂二丁目──と完全に一致していたことに。
そして、資料ファイルの中には、別の地図が紛れていた。
表面上は同じ構図。
だが、拡大してみると、あるはずのビルが一つ描かれていない。
しかも、PDFのメタ情報にはこんな一文があった。
「202X/9/24 04:03 作成者:非開示
データ提供:Luma都市空間研究所(削除済)」
「Luma……?」
どこかで見覚えがあった。
昨夜、調べていたヒヨコ☆ちゃんの配信ツール《LumaCast》。
その開発母体の名が、《Luma都市空間研究所》。
──彼女の“死”と、“都市開発”は、
まったく異なるジャンルの話だと思っていた。
だが、違った。
彼女が配信していた“空白の14分”。
そして、ここにある“空白の区画”。
それはすべて──《記録されない領域》だった。
*
その夜、瞬は役所を出て、地図のその場所へ向かった。
渋谷、道玄坂。
午後8時。
雨が降っていた。
現場に着くと、奇妙なことに気づいた。
そこには何もない──
……はずだった。
でも、あったのだ。
建物が。看板が。ネオンが。
「地図では“空白”なのに……実在する……?」
しかも、あるビルの前にだけ、人の気配がなかった。
隣のラブホテルも、クラブも、コンビニもにぎわっているのに、そのビルだけ“沈黙していた”。
「……ここ、何のビル?」
Google Mapでは名前が出ない。
ストリートビューでも、モザイクがかかっている。
実在しているのに、存在しないように振る舞っているビル。
その入口に、なぜか小さなQRコードが貼ってあった。
読み込むと、黒い画面に白い文字が浮かんだ。
「アクセスコード:HYK0217が必要です」
“HYK”──ヒヨコ。
彼女のIDコードに一致していた。
彼女の死と、渋谷再開発と、この“記録されないビル”──
すべてが、一本の線でつながった。
瞬はその時、強い視線を感じた。
振り返ると、黒いパーカーを被った若い女性がいた。
目が合った瞬間、彼女はフッと微笑み、こう言った。
「あなた、命狙われてるよ──たぶん」
そう言って、闇に消えていった。
……何が起きているのか、分からなかった。
でも、ひとつだけ確信できた。
これはもう、再開発なんかじゃない。
これは、
“都市そのものを再編集する”計画だ。
──第3章、了。
