《再開発図面の右下には、鉛筆で引かれた“×”印があった。》

佐伯 瞬は、昼休みの誰もいない区役所のフロアで、ひとりファイルをめくっていた。
「なんで……ここだけ評価額が、3分の1になってる?」

都市開発の調整区域。立ち退き対象の土地。
そのひとつに、見覚えのある“中華料理店”があった。
通学路の途中、子どものころから何度も餃子を買った店だった。
いつの間にか店は更地になっていたが、説明を聞いたことは一度もない。

「上司に聞くしかないか……」

そう思った瞬間。
ファイルの間に、一枚のメモが滑り落ちた。

《ヒヨコ☆に聞け》

手書きで、それだけ。
謎の“アイドルっぽい名前”に、瞬は苦笑した。
だがその裏面にはURLと、アクセスパスが書かれていた。

その日の夜。
佐伯 瞬は、生まれて初めて“匿名掲示板の深層”にログインし、
そこで、Vtuber「ヒヨコ☆ちゃん」との出会いを果たす──。