こちら元町診療所

また棗先生が来たかと思い驚いて
立ち上がると、医事課のドアにもたれて
いた叶先生にホッとしたのか、安堵の
溜め息が溢れてしまった。


『どうした?仕事が終わったなら
 一緒に帰ろう。』


棗先生はもう帰ったのかな‥‥‥。

何処かで見てやしないか不安になり、
人差し指を口に当てて先生を見ながら
首を横に振った。


(渡さない‥‥)


あの言葉をどういう意味で伝えてきたのかちゃんと聞けなかったけど、雰囲気
で冗談ではないのだけは伝わったのだ


温かい診療所の雰囲気を私のせいで
壊したくないし、新体制になって
みんな不安な時にバタバタしたくない‥


『靖子でどういうことか説明して?』


「ッ!(こっちにきて欲しくないのに、
 医事課の中に入ってきてる!!)」


急いで立ち上がり、医事課の窓から
顔を出し、社員用の駐車場を左右
何度も確認してから、今度は医事課の
ドアを閉めると鍵をかけた。


「はぁ‥‥」


『不可解な行動だな。さぁ‥説明して
 貰おうか。』

へっ?


棗先生のことばかり考えていたけど、
叶先生のことを忘れていたわけじゃ
ない。それなのに壁ドンされた状態に
唾をゴクリと飲み込んだ。


人の気持ちを了承なしに本人に伝えることなんて私には出来ない‥‥。

気持ちをオープンにしているなら、
叶先生も気付くはず。

私に言ってきたということは、
カミングアウトをしていないんじゃ
ないかと思ったのだ。


「‥‥‥ふ、2人きりになりたかった
 なぁって‥‥」


『‥‥わざわざ鍵まで閉めて?』


「ほ、ほら!誰か残ってたらマズイ
 ですし、ね?これなら安全です。」


『安全?‥‥誰かに何か言われた?』


ギクッ


前から思ってたけど、先生って
私の事をよく見てると思う‥‥。

職業柄仕方はないけれど、ちょっとした変化に本当によく気がつく。


『ねぇ‥‥。正直に言わないと今すぐ
 鍵を開けてここで抱くよ?』


「抱くッ!?‥ッ‥冗談ですよね!?」


思わず大きな声を出しそうになった
私は、小声で目の前に迫る先生に
伝えるも、どんどん距離が縮まり
遂に唇に先生の唇が触れてしまった。

職場なのに‥‥こんなこと‥‥


「んッ‥‥」

唇を舌で舐めとられ、ほんの少し開いた隙間からその熱い舌先が侵入すると、すぐに深いキスに変わってしまった。


不安がある状況なのに、お構いなしに
角度を変えて深まるキスに体が熱くなる