こちら元町診療所

『‥‥来てくれないと思った。』

「家族なんだから来るに決まっる
 でしょ!?」

『うぅ‥やっちゃん‥』


おい‥‥
なんでその言葉に課長が泣くのよ‥‥。


お姉ちゃんがいない時の方が逞しく
見えるのに、お姉ちゃんの側だと
おどおどして子供みたいに見える。


『さぁ‥子宮口がそろそろ全開に
 なるから、ここから頑張ってね。』


助産師さんの声掛けに、お姉ちゃんが
苦しそうに何度も力み、課長が背中をさすったり汗を拭ってあげたりしながら
サポートをしていた。


『上手ですよ。頭が出てきたから
 後少し頑張ろう。』


もうずっと頑張ってるのに、
出産の大変さを目の当たりにする。

自分は将来こんなことが出来ない気がして、世の中のお母さん達の逞しさを改めて痛感して涙が出そうになった。


『よし‥‥産まれるよ!』


『ツッ!!』


先生が駆けつけ赤ちゃんを
取り出すと、すぐに聞こえた力強い
産声に、私も課長も一緒に涙を流した。


赤ちゃんって本当にスゴイ‥‥‥
ちゃんとお腹の中で生きてて、こんなに
元気に育って産まれたよって泣いてくれてる‥‥


『お姉ちゃん‥おめでとう‥‥。』

『ん‥‥‥嬉しい。‥‥疲れたぁ‥。』


安堵の溜め息と共にお姉ちゃんの両目
からも涙が溢れ、課長はお姉ちゃんの
髪を撫でて泣きながら抱きついていた。


小さなちいさな生命の誕生を目の当たりにして、恋人に裏切られたということで
この命を断とうとした自分を恥じる


産むことってこんなに大変なのに、
産んで育ててくれた人に感謝せず
尊い命を粗末にしようとしたのだ。


ガラッ


『‥‥靖子。』


「‥‥大志さ‥‥ッ」


夫婦だけにしてあげたいと部屋を出た
私は、廊下のベンチに腰掛けていた
大志さんを見つけて駆け寄ると
思いきり抱きついた。


この人に救われていなかったら、
この命の誕生を一緒にお祝いできな
かったかもしれない。


『無事に産まれたんだね。ここまで
 元気な産声が聞こえた‥‥。』


腕の中で何度も頷くと、色々な
思いが溢れて涙が止まらなかった。




「‥‥うぅ‥可愛いさ小ちゃい!」


新生児室を覗くと、お姉ちゃんの名前が記された小さな透明なベッドに眠る
赤ちゃんを先生と眺めていた。


一生懸命頑張って産まれてきてくれて
ありがとう‥‥。会えて嬉しいよ。


また涙ぐむ私の肩を先生が抱き寄せて
くれ、ぐっすり眠るお姉ちゃんの顔を見てからお家に帰った。