こちら元町診療所

『お帰りっていいな‥‥ただいま。』

「はい‥‥おかえりなさい。
 忙しいのにありがとうございます。」


私も背中に両手を回して抱きつくと
先生の胸に頬を寄せた。


『元気になって良かった‥‥。』

「もう平気です。‥‥あ、あの‥
 先生が大丈夫そうでしたら少しだけ
 話を聞いてもらえますか?
 それにお口に合うか分かりませんが
 ご飯作ったんですがいかがですか?」


先生のお家で食べたような素敵な
食事は作れないけど、私も何か出来る
事をしたかったのだ。


『こら、寝てないと駄目だろう?
 でも‥‥俺のために作ったのなら
 喜んでいただくよ。』


先生‥‥


狭い1LDKの部屋のリビングのソファに
先生を待たせてすぐに食事を温めると、
2人用のダイニングテーブルに料理を
手際よく並べた。


『美味そう‥‥。ありがとう‥‥。
 いただきます。』


美しい顔立ちで綺麗な所作をする
先生に見惚れつつも、味が気になり
ソワソワしてしまう。


『フッ‥‥そんな顔しなくても
 美味しいよ。靖子も食べないと。』


「はぁ‥良かった‥‥。
 はい、いただきます。」


魚の煮付けにお浸し、豚汁など、
先生にはあまり似つかわしくない
メニューに不安だったけど、先生は
ご飯をおかわりもしてくれ、ペロッと
平らげてくれた。


『ごちそうさまでした。』

「いえ‥‥お粗末さまです。」

『靖子‥‥おいで。』


洗い物を進んでしてくださった先生と、
食後の温かいお茶を用意し一緒に
ソファに座った。


今更だけど‥緊張してきた‥‥‥。

こんな普通にご飯なんて食べてしまった
けど、肝心な話がまだ出来てないのだ。


「‥あの‥‥ッ‥‥」


手を膝の上で握り締めると、小さく
深呼吸を繰り返す私の手に先生の手が
重ねられる


『大丈夫だから、話してごらん?』


優しい声色に、それだけで目頭が熱く
なり、隣の先生を見つめると、綺麗な
顔から優しさが伝わり俯いた



「私‥‥先生の隣にいて本当に
 大丈夫なのか不安になったんです。
 私の何が良かったのかなって‥‥。」


先生に対する気持ちは変わらないし、
大切な人であるのも変わらない。


なのに、伊東先生と並んだ2人を
見た時に、どうして先生は容姿も
優れてないし、中身も良くない自分を
選んだのかよく分からなくなったのだ。


異性として初めて普通に接してくれたと
言ってくれただけで、わたしのどこが
いいのとか聞いたことがない‥


可愛気があったら自分から聞けていた
かもしれないけれど、ちゃんと話せて
なかったから聞いてみたかったのかも
しれない