こちら元町診療所

仕事中は先生と事務員という立場で過ごしたいという私の意思も不満らしいが、
汲み取って貰えたからには私の方が
表情に出さないようにしないと
いけない気がしてならない。


恋愛に、自分が振り回されてバタバタする日が来るなんて‥‥‥。


お姉ちゃんに先生とのことを伝えたら
どう思うだろうか？


『叶先生は来月から診療所に見える
　2人の先生とお知り合いですか？
　お2人とも叶先生がいるならと、
　自ら来たいと言ってたそうで、
　外勤を志願されるなんて驚いたん
　ですよ。』


えっ？


私だけではなく、先生も部長の話しに
驚いた顔をして、渡された社内報に
目を通した後あからさまに嫌な顔を
して溜め息を吐いた。


やっぱり知り合いなんだろうか‥‥？
それにしてはあまり良い表情には
見えないけど‥‥‥。


『中原さん、システムのことで
　少し聞きたいから診察室まで
　来てもらえますか？』


「えっ？あ、はい‥分かりました。」


はぁ？システム？
特に新しく変わってないはずなんだけど、電子カルテの調査でも悪いの
だろうか？


先生の後に続き診察室に向かうと、
カーテンを閉められた後にすぐ
先生の腕の中に閉じ込められた。


『今度来る2人の医師なんだけど、
　少し厄介な2人なんだ。』

「‥‥お知り合いなんですね。
　あまり仲が良くないんですか？」


『‥‥‥まぁ、多分会えば分かると
　思うが、靖子は必要以上に関わらなく
　てもいい。何か言ってきても、
　無視しても構わない。いいね？』


無視！？
仕事上かなりそれは難しいかもしれない
けれど、週に一度だけの診察だし、
そこまで関わることもないとは思う


珍しく落ちこむ先生を励まそうと
背中に背を回すと、そこを優しく
あやすようにさすってみた。


嫌いな人？もしくは苦手な人なのかも
しれないな‥‥‥。


気の毒だけど、来ることが決まっている
以上はよっぽどのことがない限り
覆せることはない。


『フッ‥‥前だったらこんな風に
　抱き締め返してくれる事はなかった
　から新鮮だな。大体言い返すか
　睨まれるかだったから。』


「ッ！‥それは‥先生が初対面で
　気に入ったとか変なこと言うから
　警戒してたんです！」


少し前のことなのに、思い出すと
失礼過ぎる発言が数々浮かぶ。


あの日から既にこの甘い罠に
ハマってしまっていたのかもしれない。