こちら元町診療所

川に入ったとこまでは覚えていたものの、数日まともな食事をしていなかった
ことと、元々の貧血も重なり、気づいた
時には病院のベッドの上。


あの時のお姉ちゃんの泣き腫らした顔を
今でも忘れない‥‥‥


どうして助かったのかわからないまま
だったけど、まさか先生があの日ここで
私を助けたなんて‥‥それこそ
ドラマのような話だ‥‥。


『俺さ‥‥何処に行っても、外見だけで
 近寄る異性ばかりで、診療所で会った
 靖子だけが普通に接してくれた唯一の
 人なんだ。結構感情出してきたけど、
 靖子が心を開いてくれるのを待とうと
 思ってた。まぁ‥‥我慢出来ずに
 手は出したけどね‥‥。
 こうして触れたいのも靖子だけ。
 すぐじゃなくていいから俺のこと
 信用出来ると思ったら靖子からここに
 飛び込んだおいで?』


泣き続ける私をもう一度優しく抱き締めてくれると、その場所があまりにも温かくて思いっきりその腕の中で泣いた‥。


本当ならすぐにでも返事がしたいほど、
自分の気持ちはだいぶ前から先生に
向いている。


それでも、トラウマのように残るこの
気持ちは簡単には消えず、信じたいけど
まるで鎖が絡みつくように前に進むのを
恐れてるのだと思う




『靖子は泣き虫だな‥‥。』


あれから何とか泣き止んだ私を家まで
送ってくれた先生が、私を見てフッと
優しく微笑んだ。


それだけのことなのに、心が少し
温かくなったなんて気がした私は、
鼻を啜りながらお礼を告げると、
荷物をおろしてもらい、先生の車を
見送った。


前に進めるかは分からない‥‥。
それでも先生の事だけは信じてみたい‥
‥。そう思えたことは本当の気持ち
だと思う。





「おはようございます。」


昨日は帰宅後、早めに就寝した私は、
久しぶりにいつもよりも早く出勤を
してみた。


あんなことを先生に告げられて眠れない
かと思いきや、胸のつかえがとれたかの
ように心はラクで、知られたくない
事を知っている人が受け入れてくれた
という安心感があったからだと思う。


『えっ?中原くん?今日は早いね‥
 おはよう。』


1番に出勤して、お気に入りの珈琲を
1人で飲むのが好きな部長が、私を
見つけると咄嗟に抱えていた珈琲豆を
隠した。


1杯くらいついでに淹れても減るもんじゃないと思うんだけどねぇ‥‥