こちら元町診療所

先生が何について詳しく聞いてきた
わけでもないけれど、5年前という
その具体的なワードに体が小刻みに
震えてしまう


あの事を忘れるわけもない‥‥‥


先生がその事をもしも
知っていたとしたら何故なの?


「ッ‥‥‥!」


震えていた私の手を優しく
包み込む温かい手に顔をあげると、
シートベルトを外され、先生の腕の
中に包まれた。


『大丈夫‥‥大丈夫だから。』


「‥‥もしかして‥私をここで‥ッ‥」


『ん‥そう。‥助けたのは俺だから。』


嘘ッ!!


5年前の記憶が一気に蘇り、冷たい水に
包まれた感覚に体がガタガタと震える


先生が‥‥私を‥助けた?


『フッ‥‥頑張って生きてきたんだな。
 診療所でまた会えるなんて思っても
 なかったから、初日はこれでも
 かなり驚いたんだよ。あの時の彼女
 はどう過ごしてるのかって頭の
 何処かで気にしていたから。』


そんなッ‥‥‥先生は最初から
私の事を知っていたなんて‥‥。


何も知らずに、暴言を吐いたりしていた
事に今更後悔しても遅いけれど、今は
過去を知っている人がいる事に動揺
を隠しきれない。


『靖子』


ドクン


背中をあやす優しい手の動きが止まり、
少しだけ私から離れた先生が、両手で
私の頬を包み込み上を向かせた。


『生きてて良かったな。』

「ッ!‥‥うぅッ‥‥」


泣きたくないのに、色々が思い出され、
先生の手に涙を溜めていく‥‥


『俺は靖子にまたこうして会えて、
 君のこと好きになって毎日がとても
 楽しいよ。靖子は?』


好き?‥‥先生が私のことを?


反抗する私を揶揄ってるだけだと
思ってたのに、サラっと言われた告白に
泣きながらも顔が熱を持ち始める


「もう傷つきたくないッ‥‥だから、
 冗談なら離してッ‥ヒック」


5年前、3年間付き合った3歳年上の
男性とこのままいつか結婚すると思って
いたのに、私と1番仲が良かった友達と
浮気され、子供が出来たからと突然
別れを告げられた。


ドラマのような事が自分の身に起こる
なんて思ってもみなかったけれど、
家族の次に身近な存在に裏切られること
が当時の私には受け入れられなくて、
彼とよく来たこの場所で命を断とうと
したのだ。