こちら元町診療所

課長とお姉ちゃんが車に乗って
帰るのを見送る間も訳が分からずに
居たけれど、我に帰って腕の中から
抜け出そうとすれば逆に強く抱きしめ
られてしまった。


「先生!!もう演技はいいですから
 離してくださいって!!」


モゾモゾと諦めずに抜け出そうと
するものの、背中に回された腕の
力強さに到底勝てない。


みんな帰った後だからいいものの、
診療所の駐車場で医師と抱き合うところを誰かに見られたら困る!!


『言っただろ?離さないって‥‥』


ドクン


「離してって言ってもですか?」

『ああ‥それだけは聞けない。
 話したいことがあるから、少しだけ
 付き合ってくれないか?』

「えっ?ちょっと待って!」


強引に私を自分の車の助手席に
乗せると、私の荷物も全部トランクに
積まれてしまった。


バタン


「何処に行くんです!?明日も仕事
 だから簡単に済む話ならここで
 聞きます。」


エアコンの効きがまだ甘い車内で、
運転席に乗り込んだ先生の方を
見ると、ハンドルに両腕をもたれさせた
まま私の方を先生も見つめてきた。


一体何を考えているんだろう‥‥


先生が私に対して取る行動の全てが
分からなくて、焦りと苛立ちで胸が
ズキズキと痛む


『大事な話だから、適当に終わらせたく
 ない。ちゃんと家まで送るから、
 今は信じて着いてきて貰えないか?』


綺麗な顔は相変わらずだけど、時々
私に見せるいつになく真剣な様子に
また戸惑う。

揶揄われてる方がまだ気が楽だ。


そうまで言われると頷くしかなく、
小さく首を縦に振ると、満足気に
笑った顔に赤面しそうなのを堪えて
窓の方を向いた。


旅行での疲れもあるのに、急に
話したいことってなんだろう‥‥‥。
それに、あのお姉ちゃんを黙らせる
なんて先生と昔何かあったとか?


聞きたいような怖いような内容に、
結局聞かないままでいると、暫くして
から見えてきた景色に少しだけ不安に
なり始めた。


‥‥‥どうしよう。
あれからここに来る事を避けてたのに、
偶然とは言え落ち着かない。


『靖子』

ドキッ


思い出したくもない河川敷に到着し、
車を停車させた先生に名前を呼ばれ、
体がビクッとハネる。


『5年前のこと覚えてる?


ドクン