こちら元町診療所

医事課6名、看護師、ケアスタッフ、リハビリ、検査、放射線技師など合わせると約20名の予約が土日で取れる日なんて限られてる‥‥


「今年はもうなしでもいいから
 来年豪華にしましょうよ。」


積み立てしてきたお金も来年に回せば
いいのだから、行きたくない場所や、温泉すらない宿だって悲しい。


これも全部部長が悪いのだから、
来年はランクを上げればいいのだ。


『そんなぁ‥中原君、なんとか頼むよ!
 みんな叶先生と行く旅行を楽しみに
 してるんだから。』


「無理ですよ!!3週間前に団体予約が
 取れる宿なんて限られてますし、
 取れたとしても積み立てで足りない
 とこかオンボロ宿のどちらかです!」


メソメソする部長に、危うくタメ口で
叱ってしまいそうになり、仕事中にも
関わらず大きな声が出てしまう。


『フッ‥‥‥噴火しそうな勢いだな。』


ドキッ!!


まさに鬼の形相と言わんばかりに
部長に詰め寄っていた私を後ろから
抱えるようにして部長から引き剥がされる。


「離してください!!先生には関係
 ありませんから。」


『中原君、先生だって旅行のメンバー
 なんだから関係なくないでしょ?』


「だから!!関係あってもなくても
 今回の旅行は無理です!!
 団体で泊まれるところなんてあったら
 こっちから頭下げますよ!」


せっかくとった距離も虚しくまた
部長に近づこうとしたら、またそれを
先生に阻止されてしまった。


用事があって来たならさっさと用件だけ
言って戻ればいいし、いい加減離して
欲しいんだけど!


『事情は分かりませんが‥‥大きな
 宿ならご用意できますよ?』



ええっ!!?


聞き間違えかと思うその内容に、
私だけじゃなく、その場にいた全員が
驚き先生に一斉に視線を向ける


『叶先生?どういうことですか?』


『実は、実家が旅館を幾つか経営
 してまして、京都くらいなら
 1件くらいどこかは空いている
 でしょうから。』


実家が旅館!!!?しかも京都!?


マンションからしてボンボンだとは
思っていたけれど、幾つも旅館を営む
家柄に開いた口が塞がらない‥‥


こんな小さな診療所で働いていていい人なのかと改めて感じた。