こちら元町診療所

時間が経てばこうして涙も流さず
思い出せるようにもなった。

当時はメンタルもボロボロになって、
お姉ちゃんや課長にも相当心配かけたし
私自身も立ち直れないと思っていた
くらいだ。


なんで今日泣けたんだろう‥‥

腕の温もりなんて感じてしまったから?

欲しい言葉を言ってもらえたから?


どっちにしろ、これ以上もないから、
今後は今日みたいな事が起きる事がないように振る舞わないといけない。


‥‥今の職場を離れることに
なったとしても‥‥。



あれから心配されていた研修も終わり、気付けば梅雨も開けた夏本番。


桐谷さんはこの診療所を去ってしまった


ちゃんと話せないまま終わってしまった
のが心残りではあるけれど、彼女自身が
決めたことを私なんかが覆せる力は
何もない。


どこかで元気に過ごしていてくれることだけを願うしかないのだ。


『はぁ‥暑いですね。
 診療所内は快適ですけど、外に出たら
 夕方でも昼間と変わらない暑さに
 倒れそうです。』


エコといいながらも、近年の日本の夏の
暑さは異常で、医事課内もエアコンは
入っているものの、パソコンなどの機器の熱も集中し、天井の扇風機もフル稼働
している。


「暑いから冷たい川にでも行きたい
 気分になるね。海はベタつくから
 私は苦手なの。」


『川!!いいですね!!行きましょ!!
 お盆休み前の週末とかどうです?』


『おっ!!それなら今月の社員旅行を
 そこにしようか。』


えっ!!?


無駄に香ばしい高級豆の香りを漂わせながら背後に立つ部長がニコニコしながら
私と浜ちゃんを交互に見下ろした。


「不気味‥‥」

『靖子さん!!聞こえますって!』


部長が無駄に笑っている時は、大抵
何か仕事を押し付ける時か、面倒ごとに
巻き込まれて助けを求める時だ


『中原君、あのね‥‥今更だけど
 お盆休み明けの社員旅行の手続き
 って頼める?』


はぁ!!!?


「まさか予約忘れてたんですか!!?」

『ヒッ!!』


バンっとデスクを叩く音に、課長は
ビックリしたのか椅子から転げ落ち、
部長は飲んでいた珈琲を喉に詰まらせた


『わ、わ、忘れてたんじゃないよ。
 まぁ‥そのうっかりというかね。』


「それを忘れてたって言うんです!」


信じられない‥‥。
団体予約ともなると早めの予約にしないと宿さえ取れないのに‥‥‥。