こちら元町診療所

「ッ‥!先‥ンッ‥‥せ‥ンッ‥‥」


何故今こんな場所で唇を塞がれている
のだろうかという疑問に胸板を両手で
押すものの、後頭部を引き寄せられ、
どんどんキスが深くなる


話したくても息継ぎさえ許されない。

一目惚れしたって言ってたばかり
なのに、どうして‥こんなこと‥‥‥


『‥‥泣いてる?』


唇が離されたと思ったら、長くて
綺麗な指が私の頬に伝う涙をそっと
拭っていき、私を真っ直ぐに見つめて
きた。


「先生はこういう事を気軽に誰とでも
 出来るんですか!?私は‥ッ‥もう
 恋愛はしたくないから‥誰でも
 いいならやめて欲し‥ッ‥」


思い出したくない過去のトラウマに
胃がキリキリと痛み、座っているにも
関わらず目が回る。


『靖子‥大丈夫だからおいで‥。』


「ッ‥嫌‥‥」


両腕を引き寄せられるものの、それを
拒むように首を横に振る。


先生のことをドクターとしか思って
ないなんてよく言えたものだ‥‥。
キスされてこんなにも心臓が煩く
体温が上昇してるのに。


2人きりになんてなりたくなかった‥‥


『俺は居なくならないよ?』


えっ?


心臓を鷲掴みされたような台詞に何故か
目から大量の涙が一気に溢れ出す


『よく見て‥‥触れて?ちゃんと
 俺はここに居るだろう?』


頬に触れた温かい手が大粒の涙を
丁寧に拭う間も、先生から目が逸らせず
ジッとその姿を見つめていた


私が過去、一番不安に感じていた時に、
一番欲しかったその言葉を彼ではなく
先生が今言ってくれた‥‥‥。


あれから何年も経ってるのに、
その言葉がどれだけ嬉しかったか‥‥


こんな行為は許されないって分かって
るけれど、今はただただその温もりに
触れたくて、自分から先生の胸に
飛び込みしがみつく


『‥‥‥それでいい。ここを靖子が
 安心できる場所にして欲しいから。』


声を抑えつつも漏れてしまう嗚咽に、
暫く私はその場で子供のように泣いてしまった。




「‥‥ッ‥‥すみません。」


静まり返る診療所内の処置室通路で
柱にもたれて座る先生の腕の中から
そっと体を起こす


今更ながらに冷静になると、ドクター
相手に何をしてるんだろうと我に帰り、
泣き腫らした顔を見られたくて俯いた