こちら元町診療所

用紙を私の手から取られ、それに目を通す先生が満面な笑顔を見せてきた。


『部長、ホテルは同じところでも
 構いませんか?』


「はぁ!!?な、何言ってるんです?
 部長、私は安いビジネスホテルで
 構いませんので先生はいいところに
 してください!!」


みんながいるところでよくも爆弾発言を
してくれたものだ!!

まるでデートにでも行くから一緒に
楽しもうね?みたいな軽いおでかけじゃ
ないんですけど!!


『部長!!あ、あの!私も行きたい
 です!!この新人研修っていうのに
 参加したいです!!」


ええっ!!桐谷さん!!!?


目の前で厄介ごとがまた一つ増えた事に
眩暈が起こりそうだ。それに新人研修ってもう新人ではないんじゃないか?


左には叶先生。右には桐谷さん。
目の前には部長と逃げ場を失った。


『桐谷君のやる気は買いたいが、
 新人研修ならこっちでも沢山
 開催されてるから経費で何人も
 落とすことは難しいんだよ。
 悪いね。先生と中原くんは相談して
 決めるといいよ。』


「ちょっと部長!!本気ですか!?」


思いっきり睨みをきかせてデスクに
両手を置くと、目をキョロキョロさせ
ながら逃げるように医事課を出て行って
しまった。


『靖子さぁん!!ズルいです!!
 先生と2人きりなんて!!』


「あのねぇ‥私は勉強しに行くの。
 先生は偶々でしょう?ほら、書類
 チェックとスキャナーの仕事が
 溜まってるから仕事に戻って?」


何とか笑顔で桐谷さんを宥めるものの、
反対側に立つ先生の顔を見たくなくて
そのままその場を離れようとした。


『後でまた話そうね。』

「ッ!‥‥」


場所も考えずいつも通りなその態度に
返す言葉もなく無視してデスクに戻ると
クスクスと笑う声に余計に苛立った。


『靖子さん大丈夫ですか?』

「浜ちゃんが代わりに行く?」

『それは無理です。私その日は推し活
 でバタバタですから。』


救いの手を伸ばすも虚しく、やっぱり断れば良かったとさえ思えてしまう。


モヤモヤした気持ちな状態で先生と2人きりになることを何としてでも
絶対に避けたい。


憂鬱なまま仕事をこなすと、疲れからか
夕方には胃痛まで感じていた。


『靖子さん、ちょっといいですか?』


お手洗いに行った私が手を洗っていると、鏡越しに桐谷さんが居たので
振り返る。


「どうかした?」

『‥‥やっぱり叶先生って靖子さんの
 こと好きなんですよね?』


えっ!?