こちら元町診療所



『靖子ちゃんこっち。』


「お待たせしてすみません。
 あの‥来ておいてあれなんですが、
 1時間後に迎えが来るのでそれまで
 でも構いませんか?」


課長に棗先生とお茶をすることを
伝えると、大反対されたものの、
外で待ってると駄々をこねられ、
近くのコインパーキングで待って
貰っているのだ。


散々迷惑をかけているから、
蔑ろにも出来ないけど、先生とのこの
チャンスを逃したくなかった。


『護衛付き?俺って信用
 出来ないもんね?』

「まぁ‥‥ライバルですから。」

『ハハっ!ライバルか‥いいね‥‥。』


叶先生に劣らない美形な持ち主は、
店内のあちらこちらから視線を集め
目立っている。


「棗先生は‥大志さん‥いえ‥叶先生を
 どうしたいんですか?」


好きと言う気持ちはもう分かってる。
取り戻したいと言っていたことも。


診療所を辞めさせたいだけなら
ちゃんと話し合うべきだと思うし、
背景が分からないからどうしても
納得できないし、誤解も生じてるかも
しれない。


『どうしたい‥‥か‥ぁ‥‥。
 そう言われると分かんないんだよね。
 俺としては2人で開業を目標として
 来たんだけど、あっちは了承してない
 っていうからさ‥‥。
 アイツの母親に会ったでしょ?』


「あ‥‥はい。会いました。」


『一人息子が会社も継がず、母親違いの
 姉も医師の道へ。親としては大志が
 継ぐものだと思ってたから、大反対
 でさ。‥‥櫻子‥‥あ、大志の
 政略結婚の相手でもあり、
 俺の知り合いの櫻子との縁談も
 断って、大学病院を辞めたと思ったら
 あんな小さな診療所に居てさ‥‥。
 俺の夢も叶わず、櫻子も落ち込んで、
 最終手段はやっぱり母親に任せるしか
 ないんだよ。櫻子と結婚すれば、
 医師のままでいいっていう条件を
 捨ててまで君を選んだんだよ?』


嘘みたいな、想像できないレベルな話に、頭の中が追いつかない‥‥‥。


つまり‥‥棗先生は櫻子さんと大志さん
が結婚してくれたら、大志さんが医師を
辞めなくて済むからあちら側に協力をしてるってこと?一緒に開業出来るから?


大志さん本人の気持ちはちゃんと
聞いて知っているのだろうか?



「簡単に言えば私が邪魔なんですね。
 でも、私には正直、棗先生の開業の
 ことも櫻子さんの事も全く関係ない
 ですから。」


『君みたいな子には分かる訳ないよ。』


「いえ‥そうではなくて‥‥。
 棗先生も、櫻子さんも、お母さんも
 みんな自分の事しか考えてないのが
 不思議なんです。大切な人、好きな人
 ならその人を応援するのが一番の
 愛情だと私は思うんです。なのに、
 思い通りにいかないから強行手段
 なんて、余計に言うこと聞かない
 ですよ?気持ちが離れるのは当然
 です。頭がいい方達ならこんなこと
 分かるはずなのに‥‥。」