───時刻は、23:34。
小さく呟いた言葉は、ひとりきりの静寂に消えていく。
世間の話題をかっさらい華々しく結婚したはずの男は、女遊びが激しいと専ら有名ではあったけれど、さすがに奥さんが妊娠中にそれはないでしょう。
最低だよ、あなた。────最低だな、わたし。
カシャリ、と何度も切られるシャッター音は、耳障りで大嫌い。
これで次の原稿締切はなんとかなるだろうか。現場を押えられたなんて大したものだ、と編集長が褒めてくれればいいのだけど、実際は撮って当たり前なのだから、夢幻だ。
──────本当は夢があった。
幼い頃からずっと描いてきた幻想は、大人になっても持ち続けられるほど、わたしは強くはなかった。
未来に輝きを期待していたひとりの少女は、世間から忌み嫌われる者として、毎日を過ごしている。
人様の秘密を暴いて、大勢を不幸にして、「ハイエナ」「最低」「ろくでなし」なんて呼ばれる職業に、ついている。
ああ、本当に。夢なんて、見るだけ無駄だ。


