神を斬る

見た目がぱっとしない人物を、風采が上がらない、と言うそうだ。

拾ってきたロボットがまさにそれ。私のそばにおいておくだけなら気にならなかったが、さて次第を報告せねばという段になると、どうにかしなければならないような気がしてきた。

領主に雇われるには、ある程度は気にしておいたほうがいい部分である。

風呂に入れ、髪の毛を整えさせたが、どういう材質で作られているのか、まかなかにまとまりの悪い状態。

「何を思って、こんな髪にしたのかなあ」

『全く』

十分ではないにせよ、せっかく整えた髪の毛に手を突っ込んで掻き回し始める。

癖なのだろう。

でもまあ、不愉快でもなく、屈託なく浮かべる笑顔には引き込まれるところすらある。

ロボットとしての装衣もひどくくたびれていたので、いい加減に採寸して、中古衣料の店でそれなりに見えるものを購入。

『お手数をおかけします』

「いいさ。元は取るつもりなのだから」

『ははあ』

と、我ながらのんびりしたものだが、実は気持ちが急いている部分もある。ロボットを損傷させたというのは、それなりに大きな損害であり、私には即刻報告の義務がある。

なのにもたもたとしているのは、うまく説明する自信がないから。まあ、そのままを喋るしかないか。

「では、行こうか」

屈託があるのだが、理由の大半は私自身にある。他者にとってはどうでもいい話、か。

『大丈夫ですよ、きっと』

顔に出ていたか。どうもこのロボットを前にすると、気持ちが緩むような気がする。

聞こえなかったふりをして、管理局に向かう。



「つまりだ」

局長は、あちこちへこんだり傷ついたりしている事務机に上半身を放り出すようにして言う。

「曰く付きのダイニングテーブルを隠れ蓑にしていて、うちのロボットはそれに騙された、というんだな」

『そ、そうなんですよ。騙された、という言い方が正しいかどうかは、わ、わ、わかりませんが』

古いオルゴール上に発生した神が、テーブルに聖域を確保していた。借り物のロボットが指示したときには、神はそこにいた。

らしい。私には見えない。

『ご存知の通り、人間の想いが募ったものに神が降りるのは、珍しいことではありません。オルゴールもテーブルも、どちらにも想いが籠もっているようでした』

拾ったロボットは、私にだけ見えるように体を向け、猫のように笑う。

「テーブルを利用しようとしたのかな」

『隠れ蓑としても、力の増幅装置としても、うってつけですね。ただ、発生はあくまでオルゴールです』

局長は顔の皺をいくらか緩めて言う。

「ま、あいつらは何でもありだからな。それよりもロボットだが」

「損失は、申し訳ありません」

私に責任があるとも思えないから謝りやすい、とは言える。

「それは仕方がない。それはどうでもいいが」

局長は、対象が人間であったら必ず非難されるだろう無遠慮な視線で、風采の上がらないロボットを見る。

「本当にそれ、使うのか」

内心の緊張を隠して、薄く笑いつつ言う。

「やっぱり、問題が」

「問題と言うなら、いつまでも伴侶が決まらないほうが問題だ」

「ご迷惑をおかけして」

「しかしなあ。もうちょっとしゃんとしたのが局にあるだろう」

局長の屈託は、拾ったロボットの見てくれに集約されているらしい。

「では、これを伴侶にしてもいいんですか」

「解析の結果も問題はなく、登録コードも受け入れた。ロボットの野良というのは、我々には違和感があるが、古い土地だと稀にあるらしい」

「へえ」

私は軽い返事をした。拾ったロボットは髪の毛をゆっくり掻き混ぜている。その仕草を見て、局長は顔を顰める。

「へえ、じゃあない。ロボットの名前を決めてくれ」

名前、か。

ロボットを見る。自然、ロボットも私を見る。

根っこのところでは、やはりロボットは苦手な存在だ。名前なんてものは、愛着が湧くものに付けるものではないか。

「コウ、でいいですか」

子供の頃、隣の家で飼われていた犬の名前だ。犬はとても可愛がられていた。

「もうちょっとなんとかならんか。栞里とか凪沙とかあるだろうに。コウって、それじゃまるで犬じゃないか」

私は冷や汗を掻く。職業柄か、立場上か、局長は時々変に鋭い。

『コウにしましょう。負荷が軽くていいです。あたしにはちょうどいいような気がします』

拾ったロボットはそう言って、嬉しそうに頭を掻き回す。