死に戻り聖女は兄の願いを叶えたい〜気づいていないけど、無償の愛に包まれています〜

ノアは王籍に復活してすぐに新陛下として就任した。
 しかし王族派の粛清等、あまりにもやらなければならないことが多く、即位式は行ったものの新陛下就任の祝賀会および舞踏会は延期されていた。
 即位式から3カ月。
 ずるずると開催しない方向にもっていこうとするノアを阻止するべく、文官たちが激しく抵抗し開催することになった。

「レオン、大丈夫か?セレーネに最近は会えてないんだろう?」
 ノアが大きい執務机に積み上げられた書類の隙間から顔を覗かせた。
 
 深夜の新陛下となったノアの執務室。
 
 少し前まではふたりは騎士団の寮の同じ部屋で寝起きしていたのに、いまは廊下から誰もいなくなるこの時間でないとふたりきりの時間が取れない。
「1カ月…1カ月もセレーネに会えてないよ」
 レオンはどこからか椅子を持ってくるとノアの大きな執務机の前に置き、ため息を吐きながら座った。
「明日の舞踏会では前回のようなセレーネをダンスに誘わないなんて間違いを絶対にやらかすなよ」
 自分で言ってツボにはまったのか、ノアはひとりでクスクスと笑っている。
「わかっているから」
 レオンが珍しく拗ねた。
「死に戻った時、セレーネと俺はダンスのことで喧嘩中とか最悪だったからな。セレーネと再開したときに誓ったんだ。次の舞踏会では最初から最後までセレーネを独占するって」
「うわぁ。溺愛過ぎるぞ!」
 大げさにのけぞったノアをレオンがじろり睨んだ。
「国民の利便性とか言いながらも本当はアグネスと一緒にいたいがために、大聖堂を王城の近くに建設する誰かと同列にはしてほしくないな」
「それは結果論だよ。そんなことよりも用意したのか?」
「もちろんだ。これ以上、セレーネに会えない生活なんて俺には無理だ。明日、プロポーズして結婚を早めてやる!」
 決意を固めた男の顔は見ているこっちが照れそうなぐらい眩しい。
「羨ましいよ。俺は最低でもあと3年お預けを食らうよ。大聖堂が出来上るまではアグネスと一緒になれない。誰だよ。俺たちの結婚式が大聖堂のこけら落としにしたらいいと提案した奴は。でもあと3年でアグネスの祈りがなくても何の不安もない世になるように、この国の行く末を揺るぎのないものにするつもりだよ。レオン、力を貸してくれ」
 一度はこの世をあきらめかけた男とは思えない風格。堂々とし、その瞳はまっすぐ未来を見据えている。

 「もちろんだ。俺たちの絆は揺るぎのないものだ」



 ☆☆☆☆☆
 

「今日のセレーネは一段と綺麗だぞ」
 祝賀会ではお偉い方々の長い長い挨拶が続き、ようやく舞踏会となった。
 ふたりでダンスホールを目の前にその時を今か今かと待つ。
 
「ありがとう。でも誰かが独占欲丸出しのドレスを送りつけてきたのには少し引いたぞ」
 セレーネは照れながらいつものように軽い憎まれ口を叩いた。
 レオンの瞳と同じ真っ青な色のマーメイドラインの大人っぽいドレス。
 長身で凛とした雰囲気のセレーネにしか着こなせないようなドレスラインだ。

「レオン、今夜の私のこのドレス姿を目に焼き付けとけよ。貴重だぞ」
 そういうとセレーネはレオンの髪色と同じ金色のロンググローブを嵌めている右手をそっと自分の腹に添えた。

「セレーネ、今日は踊り狂う覚悟はあるか?」
「もちろん!」
 レオンとセレーネはお互いを愛おしそうに見つめ合う。お互いの瞳には強い信頼が見える。
「ではセレーネ嬢、お手をどうぞ」
 珍しく緊張した面持ちのレオンがセレーネをダンスホールの真ん中までエスコートする。
「レオン、緊張しているのか?」
 
 「いや、大丈夫だ」と言いながらもレオンはセレーネをエスコートしながら、そっと反対の手で上着のポケットを上からなぞり、ポケットの中に入っている物を指で感触を確かめた。
 (大丈夫だ。あとはタイミングだけだ)

 曲が始まり、ダンスが始まる。
 美男美女の目立つ二人は会場中の視線を一身に集めるが肝心のふたりは気にしている様子はない。
 ふたりは二人だけの世界にいるように、ずっとお互いだけしか瞳に映していない。

「レオンとずっと一緒に踊りたかったんだ。今日はずっと一緒にいてほしい」
「もちろんだ。他の女の手を取る気は微塵もないぞ」
「よかった…あのな、レオン。大事な話がある」

 セレーネの瞳が不安に揺れ、レオンを見つめる。
「大事な話?いま?」
「静かな部屋だとレオンに真っすぐに伝わりそうで伝える勇気が出ないんだ。素敵な音楽と楽しそうな人々の笑い声にかき消されるぐらいでないと勇気が出ない」
「セレーネ?」
 セレーネはいままで見たことがないぐらいの緊張した面持ちで口元が震えていた。
 あの気の強いセレーネが震える?

「——レオン、私のお腹のなかにレオンとの子がいる。その…この間の…あれで妊娠したんだ」
「妊娠。————妊娠?」
「そう『妊娠』だ」
 
 ようやく言葉の意味を理解したのかレオンが踊ることをやめ、セレーネの手を引っ張り引き寄せると息が止まりそうになるぐらい強く抱きしめた。
 
 しばらくレオンはセレーネの言葉を噛みしめるように、セレーネの柔らかさを確かめるように抱きしめたまま無言だった。
 
「————言葉にならない」
 レオンは絞り出すようにセレーネの耳元で呟くと、セレーネの耳に頬にと雨のようにキスの雨を降らし、頬をすりよせては何度も何度も頬ずりをする。それが次第にレオンの涙で涙混じりになり、セレーネの頬もレオンの涙で濡れる。

「————レオン?」

 レオンはセレーネを抱きしめていた腕を緩めるとポケットに右手を突っ込み、なにかをポケットから出してきた。

 レオンの瞳と全く同じ色の宝石がついた指輪。
 ドレスとも全く同じ色だ。
 普段は冷静な人なのに、この人はどこまで激しく独占欲が強いんだ。

 レオンに愛されていることはわかっていたが、ここまで重いとは。
 セレーネはそのレオンの重い愛を思い知って涙で霞むレオンを見つめながら微笑む。

「セレーネとの幸せを実現したい。結婚してくれ」

 レオンはホールのど真ん中で跪いて、セレーネの左手を取ると返事を待たずに重い愛の証を薬指に嵌めた。


 
 ————新陛下就任の祝賀会および舞踏会は、かつてないほどに盛り上がり、お祝いの空気一色に包まれた。
 誰もが明るい未来を想像できる素晴らしい会となり、後世まで語り継がれることとなった。

 
 そして、この国は新陛下就任の都度、ダンス中にプロポーズするのが流行り、ベビーラッシュに沸くこととなったのはまた別の機会に。