「プロフェッサー」
レオンはアグネスの願いを叶えるために、絶対に会わなくてはならない人物の元に来ていた。
その人物はレオンが部屋を訪れるとすぐに人払いをした。
出て行った使用人の足音が遠くなるのを確認するとレオンは逸る気持ちを抑えきれずにすぐにその名前を呼んでしまったのだ。
「レオン、それは秘匿名だ。ここではミラン学園長だろう」
レオンがプロフェッサーと呼ぶ年老いたその男は静かにレオンを窘めながらも苦笑いをする。
豊かな白いひげと眉毛と銀縁の丸メガネが印象的な人物だ。
王族派の親戚に名を連ねるミラン学園長は、この王族派の王立学園で表向きは王族派の学園長だ。
王族派に思うところがあり、いまは裏の顔では貴族派の頭脳「プロフェッサー」として動いている信用できる男である。
「そうでした。失礼しました」
昨夕、レオンはラチェット家の王都のタウンハウスに戻ってきてすぐに、ロンに王立学園の訪問の約束を取り付けに行かせていた。その相手がこの王立学園の学園長のミランだ。
「冷静で優等生だったレオンらしくないな。そんなに慌ててなにがあったんだ?ロンから極秘事項だとは聞いているが、奴も重要なことは主からと、決して口を割らぬからのう」
ふぉふぉと白いひげを撫でながら優しい笑いを浮かべるが、その眼光は鋭い。そしてその瞳の奥が光り、声を一段低くし声を潜めた。
「王族派のことか?」
レオンが小さくこくりと頷く。
「その前に大事なお願いがあります。今日はアグネスの編入のお願いに参りました。どうか認めてください」
「は?おぬし、いまアグネスと言ったのか?アグネス?儂の老いた耳の聞き間違いか?」
「いえ、間違いではありません。アグネスで間違いありません。いつの時期になるのかはいまここではっきりと申し上げられませんがアグネスとそして、ランドルフ・ノア・ネーデルラントの編入をお願いしたいのです。卒業まで出来なくても良いのです。アグネスに「普通の女の子」として学園生活を体験させ、ノアと一緒にて通わせてほしいのです」
ミラン学園長は前のめりなった姿勢のまま、口をあんぐりと開けて目を丸くしている。
「アグネス…アグネスは大聖堂だろう。まさかこの王族派に解放されたのか?ノアも死んだことになっているではないか。いまさら、また命を狙わることをしなくても」
「事態が急変しました」
ミラン学園長の喉がゴクリと鳴った。
「ミラン学園長、アグネスとノアの編入の許可を!」
「レオン、そう慌てるな。安心せい。儂の目が黒いうちはもちろんいつでもふたりを編入させてやる。アグネスが大聖堂から解放されて、ノアが本当の身分に戻ったならだがな。それにしても今日のお前はどうしたんだ。レオン、様子がおかしいぞ」
ミラン学園長の編入させてやるという言質を取ったレオンは、少し微笑むと姿勢を正した。
「ミラン学園長、編入の許可をありがとうございます。近い未来、ふたりを何卒よろしくお願い申し上げます。そして、ここからは貴族派の頭脳「プロフェッサー」として知恵をお貸しください」
そう言うとレオンはジャケットの内ポケットから、枯れた植物を取り出した。
「薬草だな。本当にお前たちは人使いが荒い。昨日はハンレッド侯爵家から珍しい布が持ち込まれたばかりだ。東の遠方にある国のものだ。昨日の今日だ。レオンはその布にも心当たりがあるんだろう」
セレーネからアグネスのウェディングドレスの生地のことについては、大聖堂から屋敷に帰るまでに聞いていた。
あの日… アグネスがあのウェディングドレスを纏って、花嫁の控室に入ってくるまであの布のことに気づいてやれなかった。
そして、あのウェディングドレスがアグネスの死に装束になるとは思いもしなかった。
あの布に違和感はあったのに「東の国の布など酷い嫌がらせだ」と片付けてしまったあの時の自分が恨めしい。
あの場にセレーネがアグネスの義姉としていたならば、必ず異変に気付いていたはずだ。
俺の傍にセレーネが婚約者または妻としていたなら…
「この薬草は大聖堂で発見した。どうやら酷い幻覚症状がでるものらしい。そして、これが植えてある程度の広さがある薬草園も発見した」
「クソっ、奴らはどこまで腐っているんだ」
プロフェッサーが苦渋の表情で膝を叩く。それから怒りで震える手で薬草を手に取ると匂いと手触りを確かめて、大きくため息を漏らす。
「幻覚作用がでる違法な薬草で間違いない。もちろんもう手は打ってあるんだろうな」
「はい。大聖堂には昨夜のうちに秘密裏に騎士団と貴族派の密偵が向かっています。正当な裁判に持ち込めるように細心の注意を払います」
「それが最善の策だな。レオンは大聖堂の奴らを殺したいぐらい憎かっただろう。よく思いとどまれたな」
レオンの在学中、寄り添い見守り続けたひとりとしてミラン学園長の瞳が悲しみで陰る。
「…セレーネが、セレーネがひとりで大聖堂に来たんですよ」
「ひとりで大聖堂に?なぜ?おまえと一緒にいったのではないのか?」
レオンは今日一番の悪い顔をした。
「プロフェッサー、私は未来を見てきました。未来を変えるための知恵を貸してください」
レオンはアグネスの願いを叶えるために、絶対に会わなくてはならない人物の元に来ていた。
その人物はレオンが部屋を訪れるとすぐに人払いをした。
出て行った使用人の足音が遠くなるのを確認するとレオンは逸る気持ちを抑えきれずにすぐにその名前を呼んでしまったのだ。
「レオン、それは秘匿名だ。ここではミラン学園長だろう」
レオンがプロフェッサーと呼ぶ年老いたその男は静かにレオンを窘めながらも苦笑いをする。
豊かな白いひげと眉毛と銀縁の丸メガネが印象的な人物だ。
王族派の親戚に名を連ねるミラン学園長は、この王族派の王立学園で表向きは王族派の学園長だ。
王族派に思うところがあり、いまは裏の顔では貴族派の頭脳「プロフェッサー」として動いている信用できる男である。
「そうでした。失礼しました」
昨夕、レオンはラチェット家の王都のタウンハウスに戻ってきてすぐに、ロンに王立学園の訪問の約束を取り付けに行かせていた。その相手がこの王立学園の学園長のミランだ。
「冷静で優等生だったレオンらしくないな。そんなに慌ててなにがあったんだ?ロンから極秘事項だとは聞いているが、奴も重要なことは主からと、決して口を割らぬからのう」
ふぉふぉと白いひげを撫でながら優しい笑いを浮かべるが、その眼光は鋭い。そしてその瞳の奥が光り、声を一段低くし声を潜めた。
「王族派のことか?」
レオンが小さくこくりと頷く。
「その前に大事なお願いがあります。今日はアグネスの編入のお願いに参りました。どうか認めてください」
「は?おぬし、いまアグネスと言ったのか?アグネス?儂の老いた耳の聞き間違いか?」
「いえ、間違いではありません。アグネスで間違いありません。いつの時期になるのかはいまここではっきりと申し上げられませんがアグネスとそして、ランドルフ・ノア・ネーデルラントの編入をお願いしたいのです。卒業まで出来なくても良いのです。アグネスに「普通の女の子」として学園生活を体験させ、ノアと一緒にて通わせてほしいのです」
ミラン学園長は前のめりなった姿勢のまま、口をあんぐりと開けて目を丸くしている。
「アグネス…アグネスは大聖堂だろう。まさかこの王族派に解放されたのか?ノアも死んだことになっているではないか。いまさら、また命を狙わることをしなくても」
「事態が急変しました」
ミラン学園長の喉がゴクリと鳴った。
「ミラン学園長、アグネスとノアの編入の許可を!」
「レオン、そう慌てるな。安心せい。儂の目が黒いうちはもちろんいつでもふたりを編入させてやる。アグネスが大聖堂から解放されて、ノアが本当の身分に戻ったならだがな。それにしても今日のお前はどうしたんだ。レオン、様子がおかしいぞ」
ミラン学園長の編入させてやるという言質を取ったレオンは、少し微笑むと姿勢を正した。
「ミラン学園長、編入の許可をありがとうございます。近い未来、ふたりを何卒よろしくお願い申し上げます。そして、ここからは貴族派の頭脳「プロフェッサー」として知恵をお貸しください」
そう言うとレオンはジャケットの内ポケットから、枯れた植物を取り出した。
「薬草だな。本当にお前たちは人使いが荒い。昨日はハンレッド侯爵家から珍しい布が持ち込まれたばかりだ。東の遠方にある国のものだ。昨日の今日だ。レオンはその布にも心当たりがあるんだろう」
セレーネからアグネスのウェディングドレスの生地のことについては、大聖堂から屋敷に帰るまでに聞いていた。
あの日… アグネスがあのウェディングドレスを纏って、花嫁の控室に入ってくるまであの布のことに気づいてやれなかった。
そして、あのウェディングドレスがアグネスの死に装束になるとは思いもしなかった。
あの布に違和感はあったのに「東の国の布など酷い嫌がらせだ」と片付けてしまったあの時の自分が恨めしい。
あの場にセレーネがアグネスの義姉としていたならば、必ず異変に気付いていたはずだ。
俺の傍にセレーネが婚約者または妻としていたなら…
「この薬草は大聖堂で発見した。どうやら酷い幻覚症状がでるものらしい。そして、これが植えてある程度の広さがある薬草園も発見した」
「クソっ、奴らはどこまで腐っているんだ」
プロフェッサーが苦渋の表情で膝を叩く。それから怒りで震える手で薬草を手に取ると匂いと手触りを確かめて、大きくため息を漏らす。
「幻覚作用がでる違法な薬草で間違いない。もちろんもう手は打ってあるんだろうな」
「はい。大聖堂には昨夜のうちに秘密裏に騎士団と貴族派の密偵が向かっています。正当な裁判に持ち込めるように細心の注意を払います」
「それが最善の策だな。レオンは大聖堂の奴らを殺したいぐらい憎かっただろう。よく思いとどまれたな」
レオンの在学中、寄り添い見守り続けたひとりとしてミラン学園長の瞳が悲しみで陰る。
「…セレーネが、セレーネがひとりで大聖堂に来たんですよ」
「ひとりで大聖堂に?なぜ?おまえと一緒にいったのではないのか?」
レオンは今日一番の悪い顔をした。
「プロフェッサー、私は未来を見てきました。未来を変えるための知恵を貸してください」
