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引きずり込まれた穴の先は、大広間のような室内だった。
壁には高価そうな絵画が並び、頭上では大きなシャンデリアが光を放つ。
リーシャとエミリオはひと目で金持ちの屋敷だと理解した。
「リーシャ!大丈夫ですか!?」
「大丈夫……」
床に座り込んでいるリーシャの手を取り立ち上がらせると、エミリオは大広間の中心にいる人物に注目した。
「貴方が、僕達をここに呼び寄せたんですか?」
多くの部下に囲まれ、その人物はエミリオ達を待っていた。
どこかで見たことがある明るい金髪の彼は、ヒョロリと背が高い中年期の男性だ。
「その通り。急に呼び寄せてしまってすまないね。どうしても君達に会いたくて」
彼は愛想よく笑った。
「自己紹介をしようか。僕はアンリ・メルヴェス。ようこそ、我々イェーラーの館へ。エミリオくん、リーシャさん」
悪霊魔術を扱う異端魔術師の集団、イェーラー。
以前エミリオと話していた「憶測」を思い出し、リーシャは緊張してゴクリと唾を飲み込んだ。
「僕達に、何の用ですか?」
「娘から聞いたよ。僕の呪いを解いてしまった学生がいると。君だよね、エミリオくん。僕は君にとても興味があるんだ。是非とも、我々の仲間になってもらいたい」
彼がヘレナ・メルヴェスの父親か。
しかも多くの魔術師を周りに控えさせて己が中心にいるため、彼がリーダーもしくはリーダー格であることは間違いない。
「僕にイェーラーに入れと?お断りです」
「そうかい。なら……」
アンリ・メルヴェスが周囲の魔術師達に視線を送る。
すると彼らは一斉に何やらブツブツと呟き始めた。
エミリオが魔術の気配を察知した次の瞬間。
「あっ、うぅ……!」
悪霊達の黒い手がリーシャの体にまとわりつき、首を絞めた。
「リーシャ!」
エミリオではなく、リーシャがターゲットにされて苦しめられる。
エミリオは叫んだ。
「やめてください!!僕が拒否したことに、彼女は関係ないでしょう!」
「ふむ。しかしねエミリオくん。僕は、殺そうと思って狙った自分の獲物が、こうして、目の前で息をしていることが大嫌いなんだ」
「なっ……!」
「このまま殺してしまいたいところだが……エミリオくん、君が我々の仲間になってくれるなら、この子は見逃してあげよう」


