自爆しないで旦那様!


そしてその日の帰り道、リーシャは約束通りエミリオとカフェを訪れた。

そこは前にエミリオを発見した静かで落ち着いた雰囲気のカフェだった。

「ここって、エミリオが勉強してたカフェだよね」

「そうですね。あの時は逃げてしまって、すみませんでした」

やっぱり逃げていたのか、とは声に出さず、リーシャは過去を懐かしむ。

「なんだか、随分前のことみたいに思える」

「変わったからでしょう。あの頃と今では、僕の貴女に対する気持ちは確実に変化しています」

外のテーブルで、エミリオはのんびりとコーヒーを飲み、リーシャはチョコレートケーキを口へと運ぶ。

「そのケーキはここのオススメなんです。美味しいですか?」

「うん。美味しいよ。エミリオも食べてみる?」

ケーキはリーシャの分しか注文しなかった。

エミリオは「あーん」の予感がして直ぐ様こう言った。

「結構です。前に食べたことがあるので、味は知っていますし、美味しいこともわかっています」

「そっか……」

ちょっと残念そうなリーシャに、エミリオは別の言葉を探す。

「美味しいと、知っているので……自分がそう感じたものを、好きな相手と共有したい。そう思うのは自然なことでしょう?ですから、貴女が食べてください」

好きな、相手。

その響きにリーシャの胸がドキッと跳ねる。

(エミリオは、どういう意味で言ってるんだろう?友達として?それとも……)

彼の心がわからない。

こうしてカフェに誘ってくれるのも、エミリオにとっては「友達との交流」に過ぎないのか。

(“友達”は……イヤ)

リーシャが自分の思いに気づいた時だった。

突然、グッと足首を引っ張られた。

「え?」

なんだろうと下を見る。

すると、影のような黒い手が地面から伸びていて、リーシャの足をガッチリと掴んでいた。

「きゃあ!?」

悲鳴を上げた次の瞬間、地面からいくつもいくつも黒い手が伸びてくる。

それらはリーシャの体を拘束し、黒い穴が空いた地面へと引きずり込もうとしていた。

「リーシャ!?」

突然のことにエミリオが椅子から立ち上がり、リーシャを助けようとする。

しかし、彼の足もとからも黒い手が伸びてきた。

「なっ……!これはっ……悪霊魔術……!?」

エミリオが抵抗するより早く、悪霊の黒い手がエミリオの体を押さえ込むようにまとわりつく。

「リーシャ!」

「エミ、リオ……!」

呼び合うも、為す術がない。

二人は悪霊魔術に捕らわれ、別の場所へと繋がる黒い穴へ落ちていった。