「異端集団も色々ありますが、この辺りで有名なのはイェーラーという集団でしょうか……。まあ、ここまで来ると本当に憶測となってしまいますが」
言葉を切ってから、エミリオはリーシャの瞳を真っ直ぐ見つめた。
「リーシャ、まだ完全に危険が去ったとは言い切れません。くれぐれも気をつけてくださいね」
「わかってる。エミリオも気をつけてね。彼女、呪いを解いた方法、すごく知りたそうだったし」
「呪いのことで僕だけに関心が向いてくれるなら、その方が好都合です。貴女が傷つかずに済みます」
この時リーシャはハッと気がついた。
自分はまだちゃんと、エミリオにお礼を言っていない。
(言って、ないよね?昨日は泣いちゃって……それどころじゃなかったし……)
家の前に着いた時、リーシャはおもむろに切り出した。
「エミリオ、あのね……」
「何ですか?」
「昨日は……守ってくれて、ありがとう」
頼りにしている、とは言っていたが、本当に心強かった。
エミリオがいなければリーシャの命はなかったのだ。
ラズとオーチェだけでは呪いを解くことはできなかっただろう。
「本当に感謝してるの。今、私がこうして生きていられるのは、エミリオのおかげだから」
「っ……!いえ、その……僕は当然のことをしたまでで……こんな、改まって感謝を伝えられることでは……」
困ったように視線をあちこちさ迷わせた後、エミリオは何を考えたのか、少し頬を染めた。
「リーシャ……僕からも、伝えたいことがあります」
「何?」
「僕も……貴女といる時間は、好きです。ですから、貴女を傷つける全てを許しません」
しっかりとした声に恥じらいはない。
バイオレットの瞳に見つめられ、リーシャの胸がトクンと高鳴る。
そうして見つめ合っていたはずが、不意に、リーシャの頬にエミリオの唇が触れた。
少しぎこちないそれは、エミリオからの初めてのキスで。
「……では、また明日」
そっと離れてそれだけ言うと、エミリオはさっと背を向けて行ってしまった。
まさかの出来事に呆然となるリーシャ。
頬がものすごく熱くなる。
オーチェにされるキスと同じはずなのに、全く違う余韻が残った。
(こんなのって……こんなのってズルいよ、エミリオ……!)
恋人でもないのに、付き合ってもいないのに、もっと触れてほしいと思ってしまう。


