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「それにしても、彼女はどうして悪霊魔術なんかに手を出したのでしょうか」
家への帰り道、歩きながらそんな疑問をエミリオが呟いた。
ヘレナのわかりやすい尾行はなくなったが、しばらく警戒するに越したことはない。
そんな理由で、リーシャはエミリオに送ってもらっている。
ちなみにエリマキトカゲのラズは「野暮用!」と言ってどこかに消えた。
「失礼ですが、悪霊魔術を扱えるほど優秀な人物……というわけではないんですよ、彼女」
そう言えばと、リーシャは思い出す。
――呪いは完璧だった!私のパパが、失敗なんてするはずないんだから!
「パパが失敗するはずないって、言ってたよ」
「パパ?彼女の父親が実行犯ということでしょうか?」
「かもね。憶測でしかないけど」
「なるほど。では、もしかすると……ヘレナ・メルヴェスの父親は、異端魔術集団の一員かもしれません」
異端魔術集団。
言葉の通り、禁忌とされる悪霊魔術を操る異端魔術師達の集まりだ。
国で禁止されている悪霊魔術を使用することは犯罪になるので、簡単に言うと彼らは「危ない魔術を扱う犯罪者の集団」ということになる。
「そう、なのかな……?」
「可能性は高そうですね。“失敗するはずない”と言い切れるということは、おそらくかなり扱い慣れているということです。異端魔術師ならそれが当てはまります」
ヘレナのことは一応、同じ大学の生徒なので今回は見逃した。
それに、彼女が関わったハッキリとした証拠もない。
然るべき所に訴えてもエミリオ達が不利になるだけだろう。


