そして翌朝。
リーシャが目覚めて一階のリビングへ来てみると、そこには普段なら絶対いない人物がソファーに腰掛けていた。
「おはようございます、リーシャ」
「お、おはようっ」
エミリオである。
彼に爽やかに挨拶され、リーシャは昨夜、エミリオの前で恥じらいもなく泣いてしまった自分を思い出した。
なんだかちょっと気まずい。
「よく眠れましたか?」
「うん。よく、寝れたよ」
リーシャは落ち着かない気持ちで立ったまま、エミリオを見る。
(なんか、朝から家にエミリオがいるの、変な感じ)
嫌な意味ではない。
嬉しいが、意識してしまってどうしようというあれである。
「よっ!リッちゃん、おーはーよっ」
どこからともなくピョコンと現れたエリマキトカゲ。
リーシャは自称ペットの登場に少しだけホッとした。
「おはよう、ラズ。今日も元気だね」
「リッちゃんは?元気か?今日くらい大学休んだって誰も怒らないと思うぞ?」
「ラズ、僕が怒りますよ。一日休んだら、その分だけ授業の理解が遅れてしまいます。それは彼女にとって良くないことです」
「エミリオくーん、こういう時に人の心を発揮しろっての。というか、休んだらその分をエミリオくんが教えてあげればいいんじゃない?二人っきりで勉強会!お家デートに誘う絶好のチャンスでしょ」
ハッとするエミリオ。
それは思いつかなかった、とでも言いたげである。
「何バカなこと言ってるのさ。エリマキトカゲになると思考能力も地に落ちるの?哀れだね」
キッチンの方からオーチェがやって来た。
馬鹿にされても屈しないエリマキトカゲがすぐさま反応する。
「おっと、オーチェくんの登場ということはメシの時間か。どれどれ〜、今日の朝メシは何かな〜っと」
「エミリオ、君も来なよ。朝食を用意したから」
「ありがとうございます、オーチェ。助かります。いきなり泊まったので、てっきり僕の分は無しかと思っていました」
「やり方はどうあれ、昨日リーシャを見殺しにしなかった君への感謝の気持ちさ。素直に受け取って腹にしまいなよ」
こうして三人と一匹は朝食タイムに。
それから出掛ける時間となったとき、エミリオはリーシャにこう尋ねた。
「リーシャ、どうします?大学に行きますか?休みますか?休む場合は後日、僕との勉強会になります」
「なんともないのに休むわけないでしょ?ラズにそそのかされないで」
「そうですか……」
エミリオが床に視線を落とす。
ちょっぴり残念そうに見えたのは気のせいか。


