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それから、リーシャの呪いを全て身に受けたエミリオは公園に行くと言い出した。
誰もいないそこで自爆をするらしい。
呪いをエミリオに移して体調が良くなったリーシャは、彼に付き添って公園まで歩いていった。
「ここまでで、いいです。後は、僕だけで……。貴女は先に、家へ戻ってください」
すっかり日が暮れて真っ暗な公園の奥へと、エミリオが一人で行ってしまう。
自爆するところをリーシャに見せたくない、という強い気持ちが、呪いで痛む彼の足を動かした。
「エミリオ……」
公園の入り口に佇み、遠ざかるエミリオの背中を見つめるリーシャ。
エミリオが心配で堪らない。
先に戻れと言われても、そばにいたい。
リーシャがその場所から動けずにいると、遅れてオーチェとラズがやって来た。
二人は留守番のはずだったが、やはり心配なのだろう。
「リーシャ。本当にもう、体は平気?どこも痛くない?」
近寄ってきたオーチェが顔色の悪いリーシャに問い掛ける。
「うん……私は大丈夫」
「スゴいよなぁ、エミリオくんは。魔術による同調ってわりと簡単だけどさ、呪いだけ移動させるって難しくない?俺は無理。そんな神経めっちゃ使いそうな魔術できない」
青年姿のラズがリーシャのすぐ隣に立った。
ラズとリーシャの距離が気に食わないのか、オーチェが嫌みをこめて言葉を投げる。
「エミリオはそういうの得意だからね。君と違って」
「はいはい。俺と違ってね。オーチェくんはできるの?」
「できないよ。僕にできることは、リーシャを呪った相手に地獄を見せてあげることくらいさ」
「わーお。マジでオーチェくんは敵に回したくないわ……」
もうエミリオの姿は闇に溶けて見えなくなった。
リーシャがポツリと呟く。
「エミリオ……大丈夫かな?」
「大丈夫っしょ。軽めの自爆って言ってたし」
「けどさ、わざわざ自爆しなくても、呪いをもらったら時間が経てば死ぬんじゃない?呪いに身を任せようとか思わないわけ?」
「オーチェくん、呪いだよ?スゲー苦しくて、死ぬ直前はのたうち回るって聞いたよ俺は」
「ふーん。まあ確かに、それを喜んで味わう趣味はエミリオにはないか」
その時だった。
何かが爆発するような音がエミリオが消えた方向から聞こえた。
その音は絶対に、人間の体から自然に出る音じゃない。
リーシャは血の気が引いた。
「あー、やったな」
「そうだね。後は待つしかない。再生を」
何度も聞いたことがあるのか、リーシャ以外の二人は落ち着いている。
(絶対、助かるっ……エミリオは必ず、私の前に戻ってくる……!)
エミリオの言葉を信じているはずなのに、リーシャは祈るような気持ちで時を過ごした。


