自爆しないで旦那様!


リーシャの頬や首、額にもこの黒い斑点が浮かんでいた。

いずれこれが痛みと共に広がり、全身を蝕んでいく。

じわじわと、死へ向かって。

「すみません。僕の魔術では、呪いを跳ね返すことができませんでした。貴女に、ツラい思いをさせてしまった……」

「謝ってないでどうにかしなよ!リーシャを見殺しにしたら赦さない!!」

オーチェが噛みつきそうな勢いでエミリオの胸倉を掴む。

「もちろん、助けます。リーシャを死なせはしません。死ぬのは、僕です」

(え……?どういう、こと……?なんで、エミリオが……死ぬ、の……?)

リーシャの声にならない疑問はオーチェの口から紡がれた。

「君が死ぬ?意味がわからないんだけど?苦しんでるのはリーシャだよ?なぜ君が死ぬの?」

「僕は降霊呪術学科で学んでいた時、悪霊魔術に関する“死の呪いを受けた時の対処法”について研究していました。その時にわかった確かな事実は“死の呪いを受けると、受けた相手が死ぬまで呪いが解除されることはない”ということです」

「……だから?」

苛立ちながら、ぶっきらぼうに問うオーチェ。

睨まれても怯むことなくエミリオは続けた。

「つまり“死ねば”呪いは消える、ということなんです。呪いを受けて死んだ場合、死後、死体に呪いの形跡が残らないのが特徴だと文献にはありました。ですから宿主の死と共に呪いも消滅すると僕は考えています」

説明を聞いたラズが愉快そうに笑う。

「呪い殺しても死因がバレないってことか。さすが禁忌の魔術なだけあって犯罪者向きだね」

エミリオは軽蔑するようにラズを睨んでからオーチェに視線を戻した。

「ですから、呪いを僕に移します」

「は……?」

オーチェが目を丸くする。

「死の呪い自体は宿主が変わったくらいでは消えません。なのでリーシャの呪いを僕に移して、僕が死にます」

これにはラズも真顔になった。

慌ててエミリオに聞き返す。

「ちょっと待てエミリオくん。まさか君……」

「はい。ラズの考えている通りでしょう」

オーチェも察したようで、彼は呆れた様子でエミリオから手を離した。

「あれだけ自爆を嫌がっておいて、君ってバカなの?野良猫でも捕まえて、それに移せばいいじゃないか」

「一つしかない罪無き命を、わざわざ奪うのですか?僕にはできません」

「ハッ!今更、命の一つや二つで何を言ってるんだか。本当、バカらしい。でもまあ、君がミスしなければなんでもいいさ。リーシャさえ助かるなら、僕は他はどうだっていい」

「なら僕の好きにさせていただきます」

エミリオはベッドに横たわるリーシャの手をそっと握り締め、囁いた。

「リーシャ、貴女の呪いを僕にください。僕が呪いごと、自爆します」