自爆しないで旦那様!


「すみません、貴女につまらない愚痴を聞かせてしまいました。僕は今から少し自宅に戻ります。悪霊魔術に関して個人的にまとめた資料があるので、それを取ってきますね。何か役に立つかもしれませんので。僕がいない間も油断せず、できるだけこの部屋から出ないようにしてください。では、失礼します」

そのまま出ていくエミリオの背中を、リーシャは呼び止められなかった。

あまりにも彼の考え方が痛々しくて。

わかりあえない感情が多過ぎて。

(私は、もし自分がいなかったら、なんて考えたこともない……能天気な人間だ)

そんな自分が、彼にどんな言葉をかけられるだろうか。

(何を言っても、きっと虚しいだけ……)

けれど、これだけは言いたい。

(エミリオのバカ……。生まれて来なければよかったなんて……言わないでよ)

エミリオの隣にいて楽しい。嬉しい。

そう思う感情の全てを否定されたようで、リーシャはとても悲しかった。

「リッちゃーん、大丈夫か?エミリオくんの言葉なら気にすんなよ?昔っからああだし。てか昔に比べたら大分マシ」

「そう、なの……?」

「そうそう。昔はなんかあると考えるよりも先に“自爆します”だったもんな。エミリオくんの口癖」

「それ、最悪なんじゃ……」

「だーかーら、マシになっただろ?」

エリマキトカゲがベッドの上でピョンと跳ねる。

それを見てクスッと笑うリーシャ。

次の瞬間、それは唐突に襲ってきた。

ゾクリ――。

(な、なに……!?)

体が寒い。

手足が急激に冷えていく。

驚くリーシャの視界をゆらゆらとした黒い影が包み込んだ。

それは醜く歪んだ死者の顔で、気付けばたくさんの悪霊がリーシャの肌にまとわりついていた。