だがしかし、そんなエミリオも当然ながらずっとリーシャの隣にいられるわけがない。
ある日のこと、リーシャがトイレを済ませ、一人で女子トイレから出て行こうとした時だった。
待ち構えていたのだろう。
ヘレナが急に駆け寄って来たかと思うと、リーシャの腕を掴み、隠し持っていたナイフで手を切りつけてきた。
「痛っ!」
突然のことに驚いて呆然となるリーシャ。
すると、ヘレナはなぜかハンカチを出してリーシャの傷口にそれを強く押し当てた。
それから彼女は血が染み込んだハンカチを持って走り去ってしまった。
「な、なんだったの……?」
今まで何もなかったのに、いきなりナイフである。
背筋がゾクリとした。
心臓がうるさい。
リーシャは一人でいるのが怖くなって急いで教室に戻った。
さて、教室に戻ると、鞄と一緒に机に置いておいたラズがちやほやされていた。
「このエリマキトカゲ可愛い!」
「ほら、おやつ食べる?」
「人懐っこいね~」
女子に囲まれてご満悦である。
そんなラズを視界に入れてリーシャはやっと落ち着いてきた。
「ラズ……」
普段よりも弱々しいリーシャの声にラズが反応する。
エリマキトカゲがリーシャの方にすっ飛んできた。
「リッちゃん!手、どうした!?」
出血に気づいたラズが心配そうにリーシャを見上げる。
そんなエリマキトカゲを手に乗せて、リーシャは小声で説明した。
「なんか……いきなりやられた」
「だーかーらー、俺も女子トイレに連れてけって言ったのに!」
「だってラズ、雄だし」
「まあ、雄ですけども」
ちょっぴり照れるエリマキトカゲ。
「て、そんなもん!リッちゃんの出血と秤にかけんな!」
結局怒られてしまった。


