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それからというもの、リーシャはエミリオに告白してきた女子ヘレナ・メルヴェスの視線を大学内でよく感じるようになった。
廊下を移動している時や、昼休みの中庭、空き教室での自習時間、図書室などなど、挙げればきりがない。
あからさまと言えばあからさまだが、ヘレナはリーシャに直接子供じみた嫌がらせをしたりはしなかった。
本当に、ただ見ているだけ。
それが逆に気持ち悪くもある。
この日の中庭での昼食も見られている気配があった。
というより、リーシャ達からヘレナの姿がバッチリ見えている。
彼女は二つ先のベンチに腰掛け、リーシャの方を睨みながらパンを頬張っていた。
「なんだろうな?あれ」
リーシャの鞄に入っていたエリマキトカゲがヒョコッと顔を出す。
下手過ぎるストーカー行為にラズは首を傾げた。
「殺っちゃう?」
マリーの意見である。
殺戮型の思考なだけあって発想が物騒だ。
「コラ!マリーちゃん!軽々しく一般人殺そうとしないの!」
「ラズ……貴方が言いますか?」
リーシャの隣でやれやれとエミリオが溜息をついた。
「でもでも、リッちゃんの敵ならマリーちゃんの敵なのよ?情けは無用なの!」
「今のところ、こちらを睨んでくるだけなので彼女は無害です。ですからまだ様子見ですよマリー。勝手に殺さないでください」
「むう、わかったの」
あの日以来リーシャを気づかって、エミリオは本当に講義以外のほとんどの時間をリーシャと一緒に過ごすようになった。
お弁当はもちろん一緒に食べるし、家までの送り迎えもしてくれる。
(何もそこまでしなくても……)
とは思ったものの、オーチェに事情を説明したら是非送り迎えをしてもらえと言われてしまったリーシャだった。
オーチェもオーチェで心配性だ。


