自爆しないで旦那様!


「やっぱり、恋人なんだ!悔しいっ……絶対別れさせてやるんだから!」

陳腐な捨て台詞を吐いてから走り去っていく。

そんな彼女の背中をエミリオは呆れた眼差しで見送った。

「ハァ……何だったんですか。疲れます」

少しして、エミリオも歩き出す気配があった。

出ていくかどうか僅かに迷ったリーシャだが、後から気まずくなるよりはと、意を決する。

「お疲れ……エミリオ」

「え、リーシャ!?」

木の後ろからひょっこり現れたリーシャにエミリオは目を丸くした。

そしてすぐに察する。

「見ていたんですか?」

「うん……ごめん」

「貴女が謝る必要はないですよ。むしろ僕が謝りたいです。すみません。こんな形で貴女との関係を疑われるなんて思いもしませんでした」

「まあ、うん……私も聞いててビックリした」

「先程の彼女はヘレナ・メルヴェス。僕と同じ古文書解読学科の生徒です。くれぐれも、今後の彼女には気をつけてくださいね」

「別れさせてやる、とか言ってたの気にしてるの?付き合ってもいないのに?」

「この場合、事実はどうだっていいんです。彼女の中で僕と貴女が付き合っていることになっているなら、それが全てでしょう。ですから貴女にも迷惑が……いえ、“危険”と言った方が的確でしょうか」

エミリオはちょっと考えてからサラッとこう言った。

「とにかく、何をされるかわかりませんから、これからはできるだけ貴女と一緒にいようと思います」

「え?エミリオが?」

「僕以外に誰かいるんですか?」

「い、いません……」

「ですよね。けれど、やはりお互い講義がありますから四六時中一緒にいることは現実的に考えて不可能です。ですからラズでもポケットに突っ込んでおいてください。弾除けくらいにはなります」

「怖いこと言わないで……!」

なぜだろう、エミリオが言うと冗談に聞こえない。

ラズのことは真面目に検討しようと思ったリーシャだった。