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「良いですか、リーシャ。何度でも言います。貴女は未婚の女性なんですから、男性からの馴れ馴れしいキスやその他の接触には十分に気をつけてください」
エミリオとオーチェとリーシャで一緒に休日を過ごした翌日のこと。
たまたま大学の廊下で会ったエミリオは、リーシャと並んで歩きながら昨日と同じ注意を繰り返した。
「わかったってば。エミリオは意外と心配性なんだから」
「貴女だから、心配なんです」
エミリオが立ち止まり、真っ直ぐリーシャを見つめる。
その綺麗なバイオレットの瞳にリーシャはドキリとした。
「どうか、自分を大事にしてください」
それだけ言うと、エミリオは次の教室へと行ってしまった。
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「リッちゃん、最近よくエミりんと一緒にいるのね」
さて、昼休みになってから、リーシャがマリーと二人でいつも通り昼食をモグモグ食べていた時である。
唐突にマリーがここにはいないエミリオのことを口にした。
真っ直ぐ見つめられたあの瞳を思い出し、リーシャは不意打ちの話題にドキッとする。
「エミりんね、リッちゃんの話をたくさんするようになったのよ!」
「そ、そうなの?」
「いいことだと思うの。エミりんは今まで、全然お友達をつくらなかったから……あっ、エミりんはリッちゃんにとってお友達でいいのかしら?」
「うん。エミリオも友達だよ」
「良かったわ!」
安堵してから、マリーはちょっとそわそわした。
「でもねでもね、マリーちゃんはね、エミりんはリッちゃんのこと、お友達としてじゃなくて、女の子として大好きなんだと思うの!」
「へ!?」
いきなり何を言い出すのだ。リーシャの声が裏返る。
「リッちゃんはどう?エミりんのこと好き?」
「す、好き、だけど……友達としてであって……」
「ええ~!エミりんのどこがダメなの?顔かしら?それとも体臭……?あっ、もしかして、足の裏が臭かったの!?」
「いや……その……嗅いだことないから、わからない」
「そうなのね。マリーちゃんはドラりんの嗅いだことがあるのよ!あれは酷かったわ……」
「ドラりん……?」
ドラりんとはマリー達の生みの親、大魔術師ドラゴシュ・リデアのことである。
ちなみに、足の裏を嗅げとドラゴシュから強制されたわけではない。
魔術による生命体として生まれたばかりの無知なマリーが、犬や猫のように何でもかんでも舐めたり臭いを嗅いだりしていたせいであり、むしろドラゴシュは被害者だった。


