「うん、可愛い」
リーシャを見てニッコリと笑むオーチェ。
リーシャの頭には黄色の花冠が置かれている。
「花冠、ですか。いつの間に作ったんです?」
自分の頭に手をやって、リーシャにもそれが花冠だとわかった。
エミリオの問いにオーチェが苦笑する。
「今摘んだやつを魔術で編んだんだよ。役に立たないような魔術しかできないからね、僕は」
こんな役に立たない花冠の魔術を教えてくれたのは誰だったか。
(ドラゴシュ……まだ、覚えていたよ。君に初めて教えてもらった、“殺しの役に立たない”魔術を……)
生みの親のことを思い出しながら、オーチェは今の一番大切な存在を見つめた。
頭に花冠をちょこんと載せたままのリーシャに顔を近づけ、そっと彼女の頬を撫でる。
「ありがと、リーシャ。君がいるから、この魔術が無駄にならずに済んだ」
「花冠を編む魔術って……ふふ、なんだか可愛い」
「殺戮型の僕には平和すぎるでしょ?でも、それでいいのさ」
オーチェは内緒話をするようにリーシャの耳元へ唇を寄せた。
「君が、笑ってくれるから」
くすぐったい囁きの後、リーシャの頬にチュッと軽い音が落ちる。
オーチェからの親愛のキスだった。
(あ、オーチェのこれ、久しぶりかも)
オーチェはよくリーシャが子供の頃、おはようやおやすみ、ただいまなどで頬にキスをしてくれた。
兄のような存在のオーチェだからこそ、軽くて優しいこのキスはリーシャにとって安心できるものである。
しかし、エミリオの反応は違った。
「なっ!?オーチェ!!女性に軽々しくキスをするなんて、何を考えているんですか!」
「あー、うるさい」
「エミリオ?何怒ってるの?」
「リーシャ!いつもこんなことをされているんですか?」
「えっ、いや……いつもでは……」
「さて、そろそろ帰ろうか。リーシャ、今度はお弁当を持ってこようね。ほらエミリオ、怒ってないで仕事しなよ」
せっつかれ、渋々エミリオが作業を始める。
後でリーシャにはよくよく注意せねばと、内心で思いながら。


