(あっ……)
一瞬だった。
ふわりと体が浮いたかと思うと、風が頬を撫でた。
それから視界いっぱいに広がった景色は、青空の下の花畑。
丘は一面、可愛らしい黄色の花に覆われていた。
「きれい……!」
「これは……見事ですね」
感嘆の声を上げる二人を見てオーチェは自慢気に笑む。
「どう?美しいでしょ?」
「まさか、こんな風景に変わるなんて……時の流れとは偉大ですね」
「前はどんなところだったの?」
リーシャが問えば、少し声を低めてエミリオが言った。
「ここには昔、村があったんです」
「でも敵軍に攻められて、僕らが来た時には既に住民は虐殺されていたんだよ」
「そんなっ……!」
その昔この丘に村があったなんて、教えられなければ知らなかった事実だ。
しかも戦争により村も村人達も失われた。
(だからエミリオは、あまり乗り気じゃなかったんだ……)
そんな悲惨な場所だと知っていればリーシャも行きたいとは言わなかっただろう。
そっとオーチェに目をやれば、彼は花を摘んでいた。
明るい色の花を集めながら、オーチェは静かに続きを語る。
「僕は敵兵を皆殺しにして、ここに血の海をつくった。それなのに、今はもう、その悲惨な面影すらない。むしろここは、美しくすらある」
オーチェは自ら摘んだ花を愛しげに眺めてからリーシャへと向き直った。
「リーシャ、僕はね、世界は美しくあるべきだと思うんだ。それを醜く作り替えてしまうのは“僕ら”さ」
オーチェの言う「僕ら」とはいったい誰のことだろうか。
人間か、兵器か。
その両方か。


