「ところでさ、さっきお茶したばっかりだけど、せっかくここまで来たんだし、俺の特別レシピの紅茶でも飲んでく?リッちゃん絶対気に入るよ」
「もうラズから物はもらわないって決めたの」
「え~、悲しいなぁ。もう今日はリッちゃんエリマキトカゲちゃんだし、これ以上何もしないって」
「信用できない」
「なら俺の隣で、俺のこと見張ってれば?リッちゃんがちゃーんと見てれば安心でしょ?」
そこまで言われ、リーシャはちょっと考えた。
(まあ、作るところを見ていれば……)
犬になった時も、先程のイチゴのタルトも、ラズが作っているところを見ていなかったのがいけない。
最初からそばにいる今の方が安全だろうと、リーシャの中で甘い思考が展開される。
「……どうせ飲むなら、人間に戻りたいのだけど」
「ん?もうすぐ戻るんじゃない?あんまり多くは盛らなかったし」
ラズがそう言った瞬間、これまた唐突にリーシャの体が変化した。
(あっ……!)
いきなり体が大きくなり、ラズの肩から落っこちたリーシャは小屋の床に尻もちをつく。
気づけば人間の姿に戻っていた。
「いったた……」
「おっと、ごめん。お姫様抱っこで受け止めそこねちまったか」
「べつに……ラズに抱っこされたくなんかない」
「まあ、そう言うなって」
ラズのしっかりとした腕が尻もちをついたリーシャの体を抱き上げる。
ラズはそのままリーシャをお姫様抱っこで運ぶと、そっと椅子の上におろした。
「ここからでも俺の作業は見えるから、大人しく座ってな」
「あ、ありがとう……」
「ん?リッちゃん顔赤くない?もしかしてお姫様抱っこ恥ずかしかった?あんなの、オーチェくんとかに毎日されてるんじゃないの?」
「オーチェはそんなことしない!」
「へぇー。一緒に寝たりしてるくせに?」
「添い寝でしょ!もう、作るなら早くしなさいよ」
「はいはい。リッちゃんはお姫様じゃなくて女王様だったか。じゃあさっきのは女王様抱っこってことで」
それからラズはリーシャからも見える位置で手際よく紅茶をいれ始めた。
椅子に座って待っている間、リーシャはラズを意識しつつも辺りをキョロキョロと見回す。
よく見れば、この部屋には生活に必要なものもちゃんと揃っていた。
テーブルや椅子はもちろん、小さめだがキッチン、そしてベッドが隅に置かれている。
「ほい、お待たせリッちゃん」
「ありがとう」
紅茶のカップを受け取り、リーシャは熱いそれにそっと口を付けた。
(甘い……)
ラズ特製の紅茶。
ほんのり酸っぱいくせに、口内に甘さが広がる。
(なんだか、ラズみたいな味……)


