「なら、おやつ作って」
「おっと……今なんか命令されてドキッとした」
「トカゲになりなさい踏んであげる」
「え~、俺リッちゃん相手でもそういうプレイはちょっと~」
「なら僕が切り刻んであげるよ」
「それは死んじゃう!」
オーチェとなんだかんだ言い合うラズを横目に、リーシャが席につく。
するとラズはリーシャの前に、見た目が可愛いイチゴのタルトを置いた。
「どうぞ」
「これ……ラズが?」
「そうだよ。俺がつくりました。えっへん!」
得意げである。
それが納得できてしまうくらいに見た目は完璧だ。
(どうしよう……すっごく美味しそう。しかも私が望んでいた甘いもの……)
なんて絶妙なタイミングだろうか。
ラズが気の利いたことをするなんて、何か企んでいるのではと疑ってしまうリーシャだった。
たとえば、このタルトに何か薬を仕込んでいるとか。
疑いつつも、リーシャは甘いものの誘惑に負けてパクリと食べる。
「美味しい!」
「そりゃ良かった」
料理上手なオーチェと同じくらい、否、下手したらそれ以上に。
「ラズのくせに、なんでこんなに美味しいの?」
「その“俺のくせに”って言い方が納得いかないんだけど……」
「もしかしてラズ……料理好き?」
美味しいレストランを知っていたのも、こうして自分で作るのも、料理に興味があるからだろうか。
そう思いリーシャが尋ねると、ラズは興味とは正反対の無関心に近い眼差しでタルトを見つめた。
「好き、というか得意。料理って刃物とか火とか使うじゃん?そういうの扱い慣れてるから、できるようになると苦じゃないっていうか……。まあ、うん。それだけ」
「君の場合は趣味じゃない?僕も料理は得意だけど、君ほど凝らないよ」
「そ?じゃあ趣味ってことでいいや」
会話をしながらパクパクと食べるリーシャ。
イチゴのタルトはどんどん減っていく。
そんな中、突然ラズがニヤリと笑った。
悪い笑顔である。
「リッちゃん。そろそろ、さ」
「そろそろ?」
なんのことだろうと、リーシャが首を傾げたその時。
グニャリとリーシャの体が歪んだ。


