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とある休日のこと。
休み明けに小テストがあるらしいので、リーシャは暇な午後の時間を、前に暗記した叙事詩の復習に使っていた。
自室の勉強机にて、本と向き合って早数時間。
「はぁ……」
疲れてきた。
ちょっと休憩して何か甘いものでも食べようと、勉強を中断してリーシャはキッチンへ。
するとそこにはラズがいた。
珍しく、人間の姿で。
「よっ、リッちゃん!丁度いいところに」
チョコレート色の髪の青年がニコリと微笑む。
実のところ、まだラズのこの姿にはあまり慣れていないリーシャだった。
「ラズ?貴方、何やってるの?」
「料理」
「できるの!?」
「できますとも。俺をなんだと思ってんの?」
「食欲旺盛なエリマキトカゲ」
「おう……間違っちゃいない」
ラズが苦笑した時だった。
リビングでのんびりしていたのか、眠そうなオーチェが不機嫌マックスでキッチンにやって来た。
「なに堂々と料理してるのさ。キッチンは僕の城だよ。消えな」
「消えなは酷くない?もう少し俺にも優しくして。てか、もうリッちゃんに正体バレちゃったから料理くらい堂々とするっての」
ここはラズの家ではない、とオーチェもリーシャも思ったが、言ったところで素直に出ていくラズではないことも知っている。
なんとも厄介だ。
「で、どうしていきなり料理を?」
リーシャが改めて尋ねると、ラズはムスッとした顔でこう言った。
「なんか俺、この姿のリッちゃんからの評価が駄々下がりみたいだから、この際リッちゃんの胃袋をガッチリ掴んでおこうかと」


