オーチェが路地で殺る気モードになった時、確かにリーシャの体は震えた。
暴力や死を怖いと思い、それを現実にしてしまうオーチェに不安も覚える。
けれど、悪夢に苦しんで、リーシャのそばにいたいと望む弱いオーチェも知っている。
「前にエミリオが言ってた通り、私はみんながどれ程すごい力を持っているのか、ちゃんと見たことがないから知らない。だからきっと、今のままなら、そばにいることが怖いとか不安だとか……あんまり感じないと思う」
「それはつまり、知ったなら感じ方も変わる、ということですか?」
「それは、知ってみなくちゃわからない。その時にならなければ、どんな感情を抱くかなんてわからないから」
もしかしたらオーチェやラズを心の底から怖いと思う日が来るかもしれない。
しかしそれは、今ではない。
「だから貴方のことも、いちいち憶測や想像で怖がったりしないからね。というわけで、はい、あーんして」
リーシャはミニハンバーグをフォークにさして唐突にエミリオの前に差し出した。
「は?」
ミニハンバーグを突き付けられたエミリオは瞬きをパチパチと繰り返す。
「上手にできたの!食べてみて」
「貴女の、手作りですか?」
「うん。今日はたまたま早起きして、自分で作ってみたんだ」
ラズにあれこれ指示されてヒィヒィ言いながら完成させた完璧なミニハンバーグ。
できたてをつまみ食いしたラズが「うまい!」と褒めてくれた。
自信作である。
エミリオからも「うまい!」の一言が聞きたい。
そう思うリーシャだったが。


