悩むことなく否定してから、オーチェは目を細めた。
「リーシャ。覚えてるかな?君は幼い頃に、誘拐されたことがあるんだ」
「えっ!?お、覚えて……ないかも」
「本当に、小さかったからね。僕がすぐ助けに行って、君は無事だった」
オーチェの瞳が不安げにリーシャを見つめる。
「今も、君は狙われてるよ。だから、気をつけて」
「狙われてるって……誰に?」
「それは知らなくていい。君が関わる必要もないクズどもだから」
「なにそれ……」
「ああそれから、ラズにも注意してね。なぜか君のペットごっこなんかしてるけど……一番信用ならない」
「ラズが?そんなこと……」
「忘れたの?ラズは隠密型。暗殺や諜報が得意なんだよ?リーシャに近づいた理由だって、君を殺すか誘拐するか……そういうことを誰かに頼まれたのかもしれない」
「……考えすぎだよ」
「甘いね。無害そうに見える奴が一番ヤバいものさ」
そういうものなのか。
ラズに関してはオーチェを信じたくないと思ったリーシャだった。
「ところで、さ……君にお願いが、あるんだけど……」
妙に歯切れ悪くオーチェが切り出す。
何だろうとリーシャが首を傾げると、オーチェはやや照れた様子でこう言った。
「今夜はここで、一緒に眠ってくれないかな?許されるなら……血塗れの刃も硝煙も知らない君を抱き締めて、眠りたい」
誰もオーチェを赦さないのならば。
(私だけでも、オーチェを赦したい……)
ふと、リーシャはそう思った。
「……いいよ」
「ありがとう。不思議だよね。昔から、君の隣は落ち着くんだ……」
リーシャが小さな頃、よくオーチェは彼女と一緒に昼寝をした。
それはオーチェ自身が安らげる数少ない眠りの時でもあったのだ。
オーチェのベッドに入り、リーシャも横になる。
オーチェの腕が愛しい命の温もりを抱き締めた。
「リーシャ……おやすみ」
「おやすみ、オーチェ。いい夢を……」


