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オーチェは神出鬼没なところがある。
大学で蛇に襲われそうになった時もそうだったが、本当にリーシャがピンチの時、どこからともなく現れる。
この日もそうだった。
アルブの町中で、本屋に寄った帰り道。
人が少ない路地でリーシャは柄の悪い男達に絡まれてしまった。
「なあ、俺らと一緒に遊びにいかねぇ?」
「い、行きません……」
「遠慮すんなって!」
こんなこと、初めてだ。
(ど、どうすれば……どう対処すれば、いいの!?)
行かないを連呼しつつグルグル悩んでいると、いきなり腕を掴まれた。
「ほら、こっち来いよ!」
「やっ……いや!!」
どうにか逃げようと、リーシャが腕に力を入れた瞬間。
「汚い手でリーシャに触れるな」
鋭いオーチェの声が近くで聞こえたかと思うと、気づけば目の前の男の手から血が流れていた。
「うわぁあ!?血がっ!!」
突然現れたオーチェが躊躇いなく男達にナイフを突きつける。
「生き延びたい?殺されたい?選ばせてあげるよ」
「なっ……!調子乗ってんじゃねぇぞ!!」
「やるかテメー!!かかってこいよ!」
キャンキャンと、犬のように吠える彼らにオーチェは笑った。
「ハッ、僕にケンカ売る?無知って恐ろしいね」
舌舐めずりをする。
そんなオーチェを見て、リーシャはぶるりと震えた。
本能的に察する。
オーチェは、殺る気だ。
「オーチェ!殺しちゃダメ!!」
リーシャが叫べば、オーチェは飛び掛かろうとする一歩手前で踏みとどまった。
殺すなとリーシャに言われては仕方がない。
「チッ、逃げるよリーシャ!こっちだ!」
オーチェに手を引かれて走り、二人で家へと逃げ帰る。
追いかけられたものの、上手くオーチェがまいてくれたので家についた頃には男達の姿はどこにも見当たらなかった。
玄関に入ってやっと落ち着き、荒い息を整える。
「はぁ……はぁ……」
「甘いね、リーシャ。殺すな、だなんて。もしあいつらが、君にとって害悪になる生き物だとしたらどうするのさ」
「そんな、大袈裟な……」
「リーシャ。僕には君を護るという使命がある。その僕が“甘い”と言ってるんだよ?もっと危機感を持ってくれなきゃね」
「……危機感て、何に対して?」
人を殺さねばならない程の危機感とは、何なのか。
理解に苦しみ尋ねるも、オーチェは答えをくれることなく一人で納得してしまった。
「……そうだね。君は知らなくていい憂いだった」
そのままスタスタとキッチンへ行ってしまう。
そんなオーチェの後にリーシャも続いた。
「そう言えば、そもそもオーチェはどうしてあそこにいたの?」
「ああ、僕は買い物帰りだったのさ。今夜の夕食のね」
よく見ればオーチェの腕には買い物袋が。
これを持って暴れていたらしい。
果たして中身は無事だろうか。


