「…………」
「あれ?リッちゃん?おーい」
「……もう、何も信じられない」
「そんなこと言わないでリッちゃん。俺はラズ。正真正銘リッちゃんのラズ」
「……貴方、女にも変身できたのね」
「そりゃあね。こう見えて優秀な学生だったから」
「だからって……よりによってマリーちゃんに……」
「だって、こうでもしないとリッちゃんとデートできないと思って。部屋も追い出されちゃうし」
「ちなみに……いつから、変身してたの?」
「一緒に帰ろうってリッちゃんを誘ったところからぜーんぶ俺です」
ならやはりレストランで一緒に食事をした相手もマリーではなくラズだったのか。
もしやと思ったことが当たっていて、ますますリーシャの溜息が重たくなる。
「ハァ……。もう私の知り合いに変身するのはやめてね。本物かどうか相手を疑いたくないし……本当の貴方も、わからなくなる」
「ふーん……本当の俺、ね。わかった。今度からはリッちゃん騙してデートしたりしません。これでいい?」
誠意が足りないように聞こえるが、もう何も言う気になれない。
リーシャは黙って頷いた。
「ラズ、帰ろう」
「えっ!せっかく来たのに?まだ飲んでないんだけど?」
「これ以上遅くなったらオーチェが心配する」
「オーチェくんなんて気にすることないって。ちょっとは心配させてやればいいんだよ」
「……貴方、オーチェにちゃんと連絡いれてくれた?」
「さーて、どうだろ?」
ニヤリと笑うラズにリーシャはキレた。
「帰るっ」
「冗談!怒るなよリッちゃん!」
ラズの慌てた声を無視してリーシャは振り返ることなく店を出る。
(ラズのバカ!こんなやり方しなくても、誘うなら普通に誘ってくれればいいのにっ)
苛立ちながら、リーシャは追いかけてくるラズの足音を背中で聞いた。


