自爆しないで旦那様!


その翌日、講義が一つ休講になってしまい、リーシャは珍しく空き時間を大学の外で過ごすことにした。

アルブの町にはリーシャが通う大きな魔術大学があるため学生の姿が多い。

そんな学生達の間で人気のカフェがあるのだが、リーシャは以前そこへ行った時、あまりの人の多さに落ち着けなかった。

(オシャレで雰囲気は素敵だったけど、もうちょっとゆったりした感じがいいんだよね……)

もっと人が少なくて静かで、ゆっくり叙事詩や魔術書が読めるお店はないものか。

どこかに良さそうなカフェがないか探しながら、いつもは通らない道をプラプラ歩く。

「あっ。あのお店、いいかも」

入ってみようと近づくと、外のテーブルに見知った顔を発見した。

(っ……エミリオだ)

見れば、本とにらめっこしながらレポートを書いている。

声を掛けたらお邪魔かもしれない、とは思ったものの素っ気なくされた昨日を思い出して、リーシャはなんだか無性に彼を構いたくなった。

「エミリオ、こんにちは」

「っ!?」

ビクリと肩を弾ませてからエミリオが顔を上げる。

リーシャを目にして彼はあからさまに視線を泳がせた。

「すごい偶然だね。エミリオはよくこのカフェに来るの?」

「……はい。ここは静かで、落ち着きますから」

「……ごめん。私も静かなのが好きなのにエミリオの邪魔しちゃったね」

「あ、いえ。僕のことはお気になさらず。もう行こうと思っていたところですし」

言いながら彼は広げていた本やレポート用紙を急いで片付け始める。

「行っちゃうの?」

「はい。では……失礼します」

本当に席を立ってスタスタといなくなってしまうエミリオ。

気のせいでなければリーシャは避けられている。

確実に。

(私、何かしたかな……?)