まさか自分がリーシャのためにここまでやるとは。
自分で自分に驚きつつ、ラズは今スッキリとした気分だった。
健康診断を受けに昔からちょくちょくリデア家に来ていたラズは、かなり前から一方的にではあるがリーシャの存在を知っていた。
知っているだけで関わる気など一切なかったはずなのだが、その日は突然訪れる。
それは、リーシャが大学に入る前のこと。
ラズはリーシャの故郷ラウジジュで、昼間にカフェの店員として働いていた。
殺し屋が本業ではあるが、基本「夜犬」は夜に動くので昼間は暇な時が多い。
そんな時はバイトをしているラズである。
たまたまリーシャがそのカフェに友達と一緒にやって来て、ラズが接客することになったのだが。
――ねえ、リーシャ。今の店員さん、すっごいカッコよくない?笑顔が素敵だよね!
――そう?胡散臭い
そんなリーシャ達の会話が聞こえてしまったラズは、笑いを堪えるのに必死だった。
隠密型であるラズは、上手く人間社会に溶け込めるよう、他の人工魔術生命体よりも笑顔やその他の表情の出来が良い。
不自然な作り物ではなく、人間らしい自然な表情ができる。
この時だって最高の笑顔で接客していたのだ。
それなのに、リーシャは何と言ったのか。
「俺の最高の営業スマイルを胡散臭いなんて評価するの、あとにも先にもリッちゃん一人なんだよなー」
面白い、と思った。
「ホントにさ、未だに胡散臭い評価のままで嬉しいような悲しいような……トキメクような?」
リーシャの相手をするのが楽しい。
リーシャの反応が面白い。
リーシャは暇つぶしに丁度いい玩具。
だからこそ、ラズはリーシャがいなくなったら困るのだ。


