自爆しないで旦那様!


ラズはグレジウ要塞から失敬してきた書類をポケットから取り出し、ベッティルに突き付けた。

「ん?こ、これは……!」

書類の内容を確認し、大魔術師の顔色が変わる。

彼は目を見開いて蒼白になった。

「ここにサインしたの、あんただろ?大魔術師、ベッティル・ドルカ?」

「なぜっ、なぜ貴様がこれを持っている!?どこで手に入れた!?」

「おー、焦ってんなぁ。てことは当たりか。これ、軍関係にしか回ってない極秘情報だろ?」

ラズは小馬鹿にしたような笑いをこぼす。

「あんたさ、兵器開発に人工魔術生命体を使っていいとか許可してたよな。まあ、そのくらいなら見逃そうかと思ってたんだよね。俺以外の人工魔術生命体がどうなろうと知ったこっちゃないし」

次の瞬間、ラズの顔から笑みが消えた。

脅すような低い声と鋭い眼差しがベッティルに突き刺さる。

「でも、兵器開発のための人体実験の許可ってのは……流石にないでしょ」

国のトップである大魔術師が、軍の魔術研究員に人体実験の許可を与えた。

この書類は人体実験を国が認めるという最悪のものだった。

軍での人体実験が許可されたら、犠牲になるのは誰なのか。

リーシャを狙っていた研究員のデスクにこの書類があったことで、ラズは容易に察することができた。

「困るんだよなー。クソつまんない世界でやっと見つけた俺のお気に入りの玩具が、こんな紙切れ一枚のせいで壊れちゃったら、どう責任とってくれるわけ?」

穏やかに語り掛けながら、夜犬は爪と牙を見せつける。

標的にされた獲物は叫ぶ間もなく喉を掻っ切られ、床に転がった。

「さて……これで本当にミッションコンプリート、だな」