自爆しないで旦那様!


「ルイも気づいたようでな。その後も何度か健康チェックだのなんだのと理由をつけて呼び出そうとする研究員どもを突っぱねておったわ」

「オーチェは、私が小さい頃に誘拐されたって言ってたけど……それって」

「ああ、それはあの時のことじゃな。リッちゃんが三歳くらいだったかの。軍の魔術研究員が犯人だったようじゃが、オーチェが気づいてすぐ動いたんじゃよ。オーチェはもともとリッちゃんに興味があったみたいで、よくそばにいたんじゃが、あの一件から更に過保護になってしまったのう」

本当に幼い頃から、オーチェが守ってくれていた。

そんな兄のような存在の彼は、今どうしているだろうか。

不安が押し寄せて、リーシャは弱々しい声で尋ねた。

「オーチェ、大丈夫かな?捕まって、酷いことされたりしてないかな……?」

「それはわからん。だが、ラズにエミリオにマリー。あの三人が助けに向かったんなら怖くはない。リッちゃんはただ信じて待ってればいいんじゃよ」

ただ信じて待つだけというのは拷問のようだ。

祖父の優しい声は、リーシャにとって慰めにはならなかった。

「ところでの、マリーとは仲良くやれとるか?あの子を大学に通うよう勧めたのはわしでな。気になっていたんじゃよ」

話題が変わり、少し俯いていたリーシャが顔を上げる。

「うん。私は仲良くできてると思ってる。マリーちゃんとは学部は違うけど、お昼のお弁当はいつも一緒だよ」

「うむ。それを聞いて安心したわ。マリーは軍から解放された後、人間と関わることをずっと怖がっていての。今までド田舎の村に引きこもって暮らしてたんじゃよ。わしの孫のリッちゃんが大学に通うから、マリーもどうかのう?と話したら、やっと前向きに考えてくれたんじゃ」

「そうだったんだ……」

リーシャが一人、中庭でお弁当を食べていたら話し掛けてきてくれた女の子。

それがマリーだった。

リーシャがマリーとの出会いを思い出していると。

「そう言えば、エミリオもアルブの大学だったか。どうじゃ?マリーほどでなくとも、少しは親しくしておるか?」

少しは親しく、どころか恋人である。

リーシャの頬がみるみる真っ赤になった。

「し、親しい……というか……恋人、なの」

これにはギーフェルも口をあんぐり。

目を丸くして孫を見る。

「おったまげたなぁ。エミリオとリッちゃんが!あのエミリオじゃぞ?あの堅物が恋愛できるんか?」

エミリオの性格を知っているせいか、素直に信じられないらしい。

相手がエミリオであることを何度も確認されて、もう笑うしかないリーシャだった。

やっと祖父が納得してくれた丁度その時。

「リーシャ」

キッチンからルイがやって来た。

「ママが夕食の支度をしてるから、手伝ってあげてくれないかな」

「わかった」

そのままリーシャは言われた通りキッチンへ。

娘がいなくなったのを確認し、ルイは小声でギーフェルに告げた。

「外で気配がする」

「ほう……?わしはどうすればいいんじゃ?」

「リーシャとフェリシアのそばにいてほしい。俺が、さっさと片付けてくるからさ」

守備型兵器だった頃によく浮かべたアルカイック・スマイルを見せると、ルイは一人、玄関から出て行った。